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そうこうしている内にあちこちから武器をぶつけ合う金属音や魔法を放つ爆発音が聞こえるようになってきた。
「生き残るのは俺だ!くたばりやがれ!!」
「ぐあああぁぁぁ!!」
実験開始からまだ数分程度しか経過していないが、場所によっては既に戦闘が始まっており、早くも複数の脱落者が出ているようだ。
断末魔やその他の音が割と近くで聞こえる事から、どうやらこのフィールドはそこまで広くはないらしい。
であれば、この場に長く留まり過ぎるのは危険だ。
既に始まっている他の戦いに巻き込まれたり、シエル単体を狙って来る者に見つかってしまう可能性もあるだろう。
隠れる場所を確保する為、もしくは敵を良く確認出来る場所を見付ける為にも早々に移動するべきだ。
シエルが腰の剣に手を伸ばし、周囲を確認しながらその場を離れようとした時だった。
壁が崩れ落ち、外からでも見えるようになっている城の中の広間の様子が彼女の目に飛び込んで来た。
「な、何なんだコイツは・・・」
「く、くそ。最終的に生き残れるのが一人だけとはいえ、コイツを一人の力だけで倒すのは無理がありそうだ。おい、お前等!!今だけで良い。コイツを倒すのに力を貸せ!!でなきゃ俺達全員、ここで確実にコイツに全滅させられるぞ!!」
遠目からの確認であり、肝心の相手が影になってしまっていて良く確認する事が出来ないのだが、どうやら複数の者達がある強力な一人を前に全滅の危機を迎えており、この場面を乗り切る為に一時的に協力し合う事を話しているようだ。
とはいえ、無事にこの場面を乗り切ったとしてもその瞬間から彼等はまた再び生き残る為のたった一人の座を掛けて殺し合う事になるのだ。
協力の提案をしている当人も、それを提案されている側の者達も、その場の誰もが複雑な心境でいる事だろう。
だが、そういった一瞬の気の迷いや判断ミスが戦場では命取りになるのだ。
「し、しまった!?離せ貴様!!ぐ、ぐあああぁぁぁ!!」
その相手は巨大な腕で男の頭部を鷲掴みにするとそのまま握力を加えていき、まるでリンゴを割るかのように握り潰してしまった。
グジャッという生々しい嫌な音と共に粉砕された頭部から脳が飛び散り、男はその場に倒れて動かなくなってしまった。
尋常ならざる恐るべき握力だ。
この位置からだと相手の顔は確認出来ないが、最初にシエルが見た者達の中でそんな事が出来そうな人物が一人だけ居たのを思い出した。
その時もその人物はシエルに背を向けて立っていた為、顔の確認は出来ていなかったのだが、今回の実験体である二十人の中の誰よりも圧倒的な肉体を持っていた事は一目で分かった。
まるでレッドアイのような剛筋に覆われた巨大な体。
血色の悪い肌で全身縫い傷だらけのその人物はまるでフランケンシュタインの怪物を連想させるような見た目だ。
武器は己の身の丈を超す程の分厚く巨大な大剣。
片言で何かをブツブツと呟いていたり時折良く分からない奇声を発していたりした事から明らかにヤバそうな雰囲気を出している人物という印象だったが、その大剣を手にしている事から見ても相手はあの時の男と見て間違い無さそうだ。
体の状態からして彼もまたかなりの改造を施されてきた人物のようだ。
過剰な人体実験や改造、薬物投与等のせいで自我が崩壊し、頭がおかしくなってしまった者達はこれまで山程見て来たが、あの様子からすると彼にもその兆候は現れている。
謎の独り言や奇声がそれだ。
このままあの白衣の悪魔達に体を弄られ続ければ、彼が完全に壊れるのも時間の問題だろう。
だがそんな相手でも今の自分達が単体で挑んだのでは歯が立たないと判断したのか、彼と対峙する者達の内の一人が叫んだ。
「こ、こうなったらやるしかない。全員で掛かるぞ!!」
その掛け声と共に複数の者達が一斉に相手の男へと襲い掛かって行く。
しかし、彼は余裕そのものといった様子でこう告げた。
「イヒ、イヒヒヒ~!!雑魚共が束になったとコロで俺をどウにか出来ると思うナよ~!!」
呂律の回らない口調でそう告げた後に男は手にしていた大剣を構え、そしてそれを勢い良く横に向かって振り切る。
するとその瞬間、彼の剣から爆風が放たれ、周囲の物が全て根こそぎ薙ぎ倒されていった。
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