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「マズい!!」
急いでシエルが地面に伏せた次の瞬間、男の放った爆風によって広間の壁が吹っ飛び、更には外の庭に設置されていた石柱やオブジェをも次々と切り裂き、薙ぎ倒して行った。
間一髪の所で攻撃を回避したシエルが恐る恐る顔を上げて周囲の状況を伺ってみると、先程まであった筈の石柱やオブジェが全て切り倒され、一面がまっ平にされてしまっていた。
彼の放った一撃はただの斬撃攻撃ではない。
大剣を振り切る勢いがあまりにも強過ぎる為に鎌風さえも生み出し、近距離と遠距離を同時に攻撃出来る一撃と化していたのだ。
間近で攻撃を受けた者は勿論、放たれた鎌風をその身に受けてしまった者も皆等しく真っ二つに切り裂かれ、男の足元に転がった骸と化していた。
何処から敵が仕掛けて来るか分からない為、シエルは心眼を使いながら周囲を警戒していたのだが、結果的にはそれが功を奏した。
彼の放った斬撃がただの近距離攻撃ではない事を見抜き、ギリギリの所で回避する事が出来たからだ。
離れているからと油断して心眼を使わないでいたり、反応があと一歩遅れていたりした場合、自分も彼等と同じように真っ二つにされていたかもしれないのだ。
そう思うと背筋が寒くなった。
更に驚くべきなのは、彼の一撃は肉体の力のみで放たれていたという事だ。
あの異常な見た目とそこから繰り出されるパワーを考えると、彼は肉体強化魔法に特化した魔法使いを生み出す為の改造を受けていた事が分かる。
肉体強化魔法は攻撃力や防御力、スピードといった使用者の肉体が持つ力を引き上げる事が出来る魔法だが、限界を超えた力を無理に引き出そうとするとその反動が体に跳ね返って来てしまうというリスクがある。
自分の放った拳で骨が砕け、筋肉が切れてしまうといった事も起こり得る為、使用者はそういった自分自身への反動を最小限に抑える意味でも、生身の状態でもある程度体が強くなくてはならないのだ。
彼のあの体はそのリスクを無くし、肉体強化魔法で得られる効果を限界まで引き出す事を目的とした改造を施された結果だ。
たった一振りしただけで自分に挑んで来た者達を一気に全滅させてしまった事から見ても、そのパワーが如何に凄まじいものであるかが伺える。
肉体強化魔法は自分自身の肉体に対して使う魔法であり、他の属性魔法のように魔力を体外に放出してしまわない分、燃費が良い。
時間が無制限とはいえ、戦いを引き伸ばして相手の魔力切れを狙うのは現実的ではない。
それより先にこちらが殺されてしまうのは目に見えている。
自分はどう振る舞うべきなのか。
シエルはそれを考えなければならなかった。
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