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その直後、シエルの背後から新たに三人の魔法使い達が駆け付け、そのまま相手の男へと向かって行った。
彼等もまた何処かから先程までの戦闘を見ていたのだろう。
シエルになど目もくれず、最優先で倒すべき相手の方へ全員で攻撃を仕掛けに行く。
「イヒ、イヒヒヒ~!!まタ来たのカ。何人でもぶっ殺しテやるゾ!!」
そう言って相手の男が大剣を構えたその瞬間、三人の魔法使い達は一人だけをその場に残して後の二人は彼の頭上へと飛び上がる。
「あ~?何だァ~?」
「余所見とは余裕だな!!」
空中へと飛び上がった二人の方に男が気を取られているその隙を狙い、地上に残ったもう一人が彼の腹部目掛けて勢い良く剣を突き出そうとしたその時だった。
不気味な笑みと共に彼は告げる。
「イヒッ!!まァ、余裕だカらなァ~」
「ッ!?」
そして気付いた時には既に相手の男が振り下ろした大剣の刃が自分の目と鼻の先まで迫って来ていた。
「は、速・・・」
即座に自分の剣を盾にして防御態勢に入るが、彼の放った一撃を受け止めたその瞬間、凄まじい衝撃が頭上から全身に襲い掛かって来る。
「くッ!!こ、これは・・・」
何とかギリギリの所で踏ん張ってはいたが、遂に力負けし、盾にしていた剣が弾かれてしまう。
そして次の瞬間、彼は勢いをそのままに振り下ろされた大剣によって体を頭から真っ二つに切断されてしまった。
大抵の場合、体が大きく、パワーに特化した個体はスピード面では一歩劣るものだが、彼の場合はその点もしっかりと補強されているようだ。
膨れ上がった筋肉の見た目に反し、攻撃に移るまでの動作が身軽な者と比較しても負けていない。
だが大振りの攻撃を放った直後には必ず隙が生まれるものであり、勢い良く大剣を振り下ろした彼の背後はがら空きの状態だ。
先程頭上に飛び上がった二人がドライブを使って宙を蹴り、既に男の背後へと回り込んでいた。
そしてその手に握った剣を振り下ろしながら告げる。
「貰った」
「喰らいやがれ、この筋肉ダルマが!!」
その言葉通り、二人の放った斬撃は男の背面を捉え、刃が肉を切り裂いた。
ズバッという音と共に赤い鮮血が宙を舞う。
本来であれば先程の一人が正面から男を攻撃し、更に動きの鈍ったところを背後からこの二人が同時に攻撃を浴びせ、三人で仕留めるのが理想の形だったのだが、やむを得ない。
いずれにせよ最後に生き残れるのは一人だけだ。
ここで一番厄介だった相手を始末出来ただけでも良しとするべきだ。
しかし・・・。
「アっは~!!痒」
そんな言葉を吐きつつ、男は変わらずそこに立っていた。
「な・・・」
「馬鹿なッ!?」
確かに二人の斬撃は彼の体の肉を切り裂いていた。
無傷だったわけではないが、浅かったのだ。
全力で斬撃を放ったにも関わらず切り口が浅かったのは、攻撃を仕掛けた彼等がミスをしたからではない。
彼の体を覆う分厚い筋肉とその上に発動している肉体強化魔法の効果が強力過ぎた為、刃が通らなかったのだ。
肉体強化魔法を使っている状態とはいえ、刃物で肉体にダメージを与えられないとなればあれは最早、鎧を着ているようなものだ。
「イヒッ!!」
男は剣を地面にめり込ませたまま先程と同様のスピードで素早く振り返ると、二人が着地するよりも先に彼等の頭部を左右の手で鷲掴みにする。
そしてそのまま全体重を乗せ、彼等の頭部を真下の地面に向かって勢い良く叩き付けた。
バゴンという激しい音と共に地面に亀裂が走り、倒れた二人は声を上げる事も無いまま動かなくなってしまった。
男の両手が真っ赤な血に染まっている事から見ても、地面にめり込んだ彼等の頭部は無事ではないだろう。
またも三人の男達をあっという間に返り討ちにして見せた彼はゆっくりと元の位置へと戻って行き、自分の大剣を地面から引き抜く。
そして刃から流れて来る血と自分の手に付着している血を交互に見ながら狂ったように笑い始めた。
「イヒ、イヒ、イヒヒヒヒィ~!!血だ!!血ダ!!血だァ~!!」
あれを倒す?
無理だ。
改めて彼の動きを見て分かったのは攻撃力、防御力、スピードの全てにおいて今の自分では遠く及ばないという事だけだ。
どう転んでもシエルでは彼を倒せない。
残酷な事実を前にシエルただ絶望感を募らせる事しか出来なかった。
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