127人が本棚に入れています
本棚に追加
だがシエルはここから更なる絶望を味わう事になる。
どうやら現実とは常に非情かつ残酷なものであるらしい。
「イヒ、イヒヒ~!!まだ外に誰か残っテいるナぁ~?コの感じは、女かぁ~?」
ゆっくりと振り返りながら男がそんな事を告げる。
瓦礫の影に隠れているシエルの存在に彼が気付いたのだ。
先程までの戦いで見せた戦闘力に加え、心眼による周囲の空間把握能力もなかなかの精度のようだ。
シエルが剣の間合いまでしか把握出来ないのに対し、相手の男は離れた場所に居る相手の存在やその特徴まで読み取る事が出来るらしい。
こうなっては身を隠す意味が無い。
腹をくくるしかないようだ。
ゴクリと唾を飲み、剣を手にシエルが静かに立ち上がると、その姿を見た相手の男が言ってきた。
「ン~?オ前、シエルかァ~?」
「え・・・?」
唐突に名前を呼ばれ、その場で立ち止まるシエル。
あんな大男に知り合いは居ない筈だが、どうやら向こうは自分の事を知っているらしい。
シエルが戸惑った様子でいるのを見た男は狂気染みた笑い声を上げながら一歩一歩こちらに向かって近付いて来る。
「イヒ、イヒヒヒッ!!俺ダよ、俺。分からナいか~?」
崩れ落ちた壁の穴を通り、男が広間から外の庭に出て来た事でその姿が露わになる。
不自然に膨れ上がった縫い傷だらけの巨大な体。
同じように傷だらけの顔は表情筋が歪んでしまっているのか、常にピクピクと痙攣を起こし、不自然な表情を作り出している。
目は左目だけが充血したように赤く染まっており、視点もろくに定まっていない状態だ。
そしてやや赤みがかった長めの銀髪。
やはりこんな人物は自分の知り合いには居ない筈だ。
最初はそう思っていたのだが、徐々に男の顔が近付いて来るにつれてシエルもまた彼が誰なのかを理解したようだ。
「ま、まさか・・・」
確かに彼女も彼の事を知っている。
こうして会うのはあの悪夢の選別試験の時以来であり、約一年ぶりだ。
この一年の間にシエルと共にアンダーアルカディアにやって来た同郷の者はほとんど死んだと聞いていたが、まさか彼もここまで生き残っていたとは。
「あなた、ジークなの・・・?」
「イヒ、イヒヒヒ!!イヒヒヒィ~!!」
シエルがジークの名前を呼ぶと、彼は再び狂気染みた笑い声を上げた。
変わり果てた姿のかつての仲間を前にシエルはただ驚愕の表情を浮かべていた。
最初のコメントを投稿しよう!