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「そォらああァぁ!!」
両手で持った大剣をジークが勢い良く振り切るとそれによる爆風、鎌風と化した斬撃がシエルに向かって襲い掛かって来る。
「ッ!?」
こうして実際に対峙し、正面から見てみると放たれる斬撃スピードもかなりのものだと分かる。
考えるまでも無くあんなものをこの剣で正面から受け止めるのは無理だ。
回避行動を取るべくシエルは自身の脚に肉体強化魔法を発動させて脚力を引き上げ、素早く横へと飛ぶ。
風属性の魔法同様、このような風の一撃は無色透明である為、目視での確認が困難だ。
その為、このような攻撃を回避するには周囲の状況を全身で感じ取る事が出来る心眼が必要不可欠になるわけだが、幸いにもシエルはこれを体得している。
使用出来る魔法が限られているシエルにとって心眼は自分の身を守る為の数少ない手段の一つであり、彼女がその技術上達の為の努力を欠かさずにいた事がこの瞬間に活きたのだ。
しかし飛んで来る斬撃を回避した直後、シエルの頭上からジークの声が聞こえて来た。
「イヒッ!!こッちダ、ウスノロォ~!!」
「ジーク!?いつの間に・・・」
見れば、シエルの頭上には大剣を大きく振り上げて構えるジークの姿があった。
正面から大振りの一撃を放ってシエルの注意をそこに集中させつつ、その隙に自分はドライブを使って彼女の頭上へと素早く回り込んでいたようだ。
あの巨体からは想像が付かない程の素早い身のこなしだ。
ジークは再びドライブを使って空中を勢い良く蹴り付けると地上のシエルに向かって急接近し、大剣を振り下ろして来る。
先程の一撃同様、シエルの力ではとてもこの攻撃を受け切る事は出来ない。
だがジークの動きが予想以上に速く、回避行動が間に合わない。
こうなれば自分の剣を盾にしてジークの攻撃を受け止め、その上で軌道をズラしていなすしかない。
二人の剣と剣がぶつかり合い、周囲に鋭い金属音が響き渡る。
「くッ!!な、何て馬鹿力・・・」
分かっていた事ではあるが、ジークの攻撃を受け止めたその瞬間、シエルの全身に凄まじい衝撃が襲い掛かって来た。
そしてこの瞬間、剣の向きを僅かに変え、ジークの攻撃の軌道を逸らした事で勢いをそのままに彼の大剣はシエルではなく、彼女の足元の地面を砕き割った。
バゴンという音と共に大剣がめり込み、石造りの道を亀裂が走り抜けていく。
「痛ッ!!」
何とか直撃は避け、ジークの攻撃を受け流す事には成功したが、どうやら先程の一撃を受け止めた際に剣を握るシエルの腕の方にダメージが来てしまったようだ。
恐らく防御時の衝撃で腕の筋繊維を痛めたのだろう。
断続的な痛みと共に腕がプルプルと小刻みに震え、指に力が入らず、剣を握り続けているのがしんどい。
これはマズい。
二人の間にはただでさえ力の差があるというのに、ここに来てそれが更に開く事になるとは。
そしてジークもまたそれを見逃さなかった。
「イヒッ!!チャ〜ンスゥ〜!!」
距離を取ろうとするシエルに対し、ジークは再び大剣を構え、追撃の一撃を与えるべく一気に距離を詰めて来る。
ジークの攻撃を防御しようとシエルが剣を構えるが、今の彼女に先程のような事をする余力はもう残されていない。
下から上に向かって放たれたジークの切り上げ攻撃によってシエルの剣は鋭い金属音と共に弾き飛ばされてしまう。
「く、くそッ・・・!!」
シエルは透かさずサブウェポンとして装備していた腰の魔法銃に手を伸ばし、それをジークに向けようとするが、彼はそれをさせなかった。
「アっは〜!!遅」
振り上げた大剣を再び勢い良く振り下ろし、それをシエルが横に避けたその瞬間を狙い、もう片方の拳で彼女の腹部を殴り付ける。
「がはッ・・・!!」
ジークの拳がシエルの腹部に深々と突き刺さり、痛みと衝撃を感じたその瞬間、彼女の小さな体は後方へと吹き飛ばされていた。
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