EP2 弱肉強食

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西エリアの問題はアルカディアにとってのれっきとした社会問題の一つであり、早急に解決すべきものだ。 大幅な予算と人員、時間を投入し、本部が本腰を入れてこの問題に対処すれば解決する事はそう難しい話ではない。 だが、本部はあえてそれを行わずにいるのだ。 アルカディア全体のコストカットと西エリア以外の場所で生活する者達の心の余裕の為に。 かつて起きた世界規模の大戦争である魔導大戦の影響でアルカディアの外には魔物が溢れ、高濃度の魔素が地上を汚染し、そのほとんどは未だ危険地帯と呼ばれる場所ばかりだ。 今や人類は絶滅危惧種の扱いとなり、居住可能な場所も大幅に制限され、ある程度の自由と安全が約束されている環境はこのアルカディアの中だけだ。 だからこそアルカディアの中で暮らす者達には快適でストレスの少ない環境が提供されなければならない。 だが、全ての者を余す事無く幸せにするというのは現実的に言って不可能だ。 誰かの幸せを築く為には、何らかの形で誰かがその礎にならなければならない。 治安が悪く、周囲からも差別されるような西エリアという劣悪な環境が存在するだけでそこ以外で生活する者達は自分自身の人生に希望を持って生きられる。 多少生活が苦しくてもあんなところで生活している者達に比べれば、今の自分の方が全然マシだと思える。 西エリアとそこで暮らす住人達の存在が他のエリアで生活する者達の精神的安定と余裕を生み出す為の糧となるのだ。 西エリアの問題は本部が解決出来ないから放置されているのではない。 本部によって意図的に放置されているのだ。 そう、これは最大多数の最大幸福理論に基づいた立派な社会政策の一環というわけだ。 故に本部から見捨てられているスラム街は廃棄区画とも呼ばれている。 彼等はアルカディア全体のバランスを保つ為の生贄なのだ。 この事実を知る者は本部の中でも限られた一部の者だけだが、実際に西エリアで生活するリオンやシエル達のような住人にしてみればたまったものではない。
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