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第6話
(ずっとアヤとしたかったこと、なんでこんなワケのわからん奴とせなあかんねん!)
そう思うと腹が立って、悔しくて、悲しくて。
涼司はありったけの力で暴れ出した。
「あ、アヤぁ……っ!」
吸血鬼の動きが一瞬止まったかと思うと、ぎゅっ、と強く、その後優しく抱きしめてきた。
「……バーカ」
静かで落ち着いた、耳触りの良い、聞き覚えのある声。
声を聞いて少し冷静になってみて、気づいたことがある。
先ほどの広い空間で、さまざまな人や飲食物の匂いが混ざっているいるときはわからなかったが、狭い空間に入ったことではっきりわかった。
――この、香りは。
「……アヤ、なん……?」
ようやく視界を解放された涼司は涙目で呆けている。
「気づくの遅すぎ。ていうか何やってるのこんなとこで」
忌々しくため息をつくのは他でもない、涼司の最愛の人。
「何やってって、招待状もらったからには参加しようと思って」
「来るなんて聞いてない」
「こっちだってパーティーのこととか一言も聞いてないし!」
「言う必要なんかないだろ」
「……会いに来る口実、やんか。仮装も見たかったし」
まるでつけ耳がへなりと下を向いてしまったような錯覚を覚えるほど、涼司はしょげかえってしまった。
佐倉が涼司の首輪についた鎖を引いた。
「まったく、なんてカッコしてるんだよ」
呆れ気味に言う佐倉に、涼司が反論する。
「え?イケてない?めっちゃクールな狼男やん。襲ったろか?」
ガオーのポーズをすると、佐倉はまた鎖を引いて、涼司の顔を鼻と鼻がつくほど近づけた。
「trick yet treat」
白塗りの肌、赤のカラコンがやけに似合っている。顔立ちと相まって、アルビノの蛇を連想させる。
「ん、だから、お菓子はもう……あ、飴ちゃん食べる?」
プチギフトの飴玉を差し出し苦笑いの涼司に、佐倉はさらに詰め寄る。
「意味、知らない?」
「お菓子をくれないと、ってヤツやろ?」
「それはtrick or treatだろ。俺はtrick yet treatって言ってんの」
そんなの涼司は聞いたことがなかった。
「……うん、知らん」
素直にそう答えると、紅い眼が細くなった。
「『お菓子はいいから悪戯させろ』、だよ」
再度鎖を引き、涼司の首筋に牙を剥いた。樹脂製で、もちろん本当に皮膚を突き破ることはない。だが涼司の理性を麻痺させるには充分な刺激だった。無意識にもっともっとと体を仰け反らせ首を差し出す。佐倉もそれに応えるように、熱い吐息を交えながら何箇所にも甘噛みを与えた。
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