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次の日、晴臣は学校を休んだ。
学校に通い始めたばかりで、人生初の登校拒否をした。
親の心配をよそに、晴臣は布団にくるまって、一日何も食べず。部屋からも出ず。眠ったり思いだし泣きしている間に、日が暮れていた。
「オミ!!」
突然聞きなれた声がして晴臣は驚き、掛け布団の間から少し顔を出すと、そこには居るはずのない健流が立っていた。
「タケル?!なんでいるんだよ!」
部屋の鍵はかけている。
健流は晴臣の顔を見ると、得意げに窓の外を指さした。ベランダをどうにか伝って、来たらしい。晴臣はびっくりして、涙が止まった。
「オミ、だいじょうぶか?」
「……」
「おなか、へってない?」
食べ物の話。今一番地雷な事を言われた晴臣は、叫びながら健流を突き飛ばして、布団にくるまった。
「オミ、オミ!」
ベッドに健流も転がり込んできた。
「これ」
二人が入ってかまくら状態の掛け布団。隙間から、夕日が射し込む。薄暗い中で見たものは、銀ホイルにくるまれたおにぎり。
「おれ、にぎってきた。おれがつくったやつ」
健流が晴臣の口元に持っていく。
「たべれるか?これ」
一日何も食べてない。だけど、昨日の事が思い出されて、晴臣の視界が滲む。
目の前に、健流に差し出されたおにぎり。晴臣は何分も固まっていたけれど……一口、口にした。
何故かのどを通った。
「……おいひい」
食べられた喜びが沸きだした晴臣より、健流が大喜びして、晴臣に抱きついた。
(タケルのは、たべれた……)
「オミ、おれのはだいじょうぶ! やったーーーーー!! よかった!」
一口飲み込んだ後、残りも全部食べられた。その後お腹が鳴って、二人で大笑いした。
翌朝、家におよばれしたのに粗相をしたクラスメイトに会いたくなくて、学校行くのはゴネたけれど
健流に引っ張られて、嫌々登校した。
無視されたり怒られるのかと怯えていたのに、皆笑って、普通に迎えてくれた。
晴臣が立ちすくむ前に、健流が中心になって、盛り上げて話して。休んだ日に、健流が何を言ってどうしてくれたのかは解らないけれど、晴臣が登校した時、みんな笑顔で迎えてくれた。
その後も、知らない人の手作りの食べ物は苦手だ。
だけど、食べなければいけない機会に出くわす度、健流は先手を打って、あのてこの手で助けてくれて。
それから、徐々に克服出来た。
* * *
そんな頃から、そんな今でも……健流は晴臣にずっとおにぎりを握ってくれる。
晴臣は、数え切れない程たべたけれど、何度食べても、今でも、多分これからもずっと
食べる度、胸がぎゅっとなって……たまに、堪えきれなくなって、おにぎりがもっとしょっぱくなる。
(恥ずかしいから、健流には言わないけど)
「オミ! ただいま!!」
隣の家に、叫びながら健流が駆け込んできた。
「タケル、お帰り。……ごちそうさま」
「ごちそうさま?何言ってんだ、今から一緒に飯食うのに!」
健流は、夕飯を翳して振り回している。
「あぁ、ありがと」
ーおにぎりおしまいー
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