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「お疲れさまです! かんぱーい!」
研修が終わった夜、新入社員の懇親会になった。
先輩などは参加しない、新入社員と出資元兼世話役のお偉方が数名の飲み会。
新人を固めてお偉方はテーブル違いで、気を遣わない様,親睦が深まる様、配慮してくれている。
健流は早々に席を取り、横に晴臣の席を確保していた様だったけれど
もたもたしていて、居酒屋の靴箱まわりの渋滞に巻き込まれた晴臣が、テーブルに辿り着いた頃には「隣いいですかあ」と同期の女子に言われ、嫌とは言えず隣に座られていた。
優しげな笑顔を浮かべているけれど、健流はちらりと晴臣を見遣り『お・そ・い』と睨みながら、口パクで告げ、埋まりかけている席の一番至近距離を指さした。
「えーーっ、冴木君と水瀬君、同じ大学で同じ学部だったんだあ」
「そうなんだよ。たまたま就職先が一緒になってね」
どこ卒話から、嘘はつけない健流が無難な返しをしていた。聞かれた事だけ答えている。
大学までは、幼なじみという事を誰彼なしにアピールしていたから、晴臣は言うと色々ややこしいのでは…と内心冷や冷やしていたが、健流も流石に会社では公言する気は無いらしい。
賢明な健流に胸をなで下ろす。
だけど、晴臣は何故か5%位モヤモヤしている。
晴臣は斜め向かいに座って居るが、周りの女子は健流に夢中で。
二人の関係を言わないのは、どう考えても当たり前なのに、躍起になっている同期の女子を見ていると、理屈無くイライラしてくる。
「何々?二人大学同じだったんだー」
「うん、そうなんだ」
嘘は吐いてない。健流は何処大学から「ああ」と返事をしているだけ。
(幼稚園からずーーーーっと一緒だよ!)
晴臣はその会話に心でつっこむ。
「友達だったの?」
「あぁ、まあね」
(友達が……セックスするか!)
涼しい顔で返事した健流の当たり前の返事に、意味もなくムカついて、晴臣は心で叫んだ。
研修が行われているホテルでシングルの部屋に、健流は夜な夜な忍び込んできて……昨日も、した。
シーツ汚したら人生終わりだと、どれだけ気を遣った事か。
晴臣は自分の隣の同僚の男子に「冴木、いきなりモテてんな」と話しかけられ、愛想笑いを浮かべ適当に談笑した。
(あーあ、こっからやなパターン)
高校,大学時代……晴臣が呼ばれた合コンに、健流は意地でも着いてきた。
そして決まってこの流れになる。
女子達の”仲良いんだあ!”からの”水瀬君!冴木君の事、教えて”攻撃。そうやって、いつも晴臣の合コンは終えていく。
案の定、今まで振り向きもせず、向かい側の席にいる健流だけを見て話していた同期の女子が、いきなり左隣の晴臣に向かって話しかけてきた。
「ねーねー水瀬君、冴木君と友達なんだよね?」
「う、うん、そうだけど」
健流の視線を感じながら、ほかの女子も参戦し始める。健流に直接聞けない質問攻撃を、晴臣は食らい始めた。
「水瀬君、」
「はい。冴木の何の事ですかー?」
わいわい質疑の嵐におざなりに答えた。
「いや、冴木君の事じゃなくて、君の事なんだが」
背後から、低い声で返事が返ってきて、晴臣は驚き振り返った。
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