51人が本棚に入れています
本棚に追加
/72ページ
慣れない会社勤めが始まって、早二ヶ月。
ゆっくり出来る休みの土曜だけれど、晴臣はいつもより早くベッドから抜け出し、窓に張り付いた。
「やっぱり……」
重暗い色が何重にもなった雲から舞い落ちた雨粒が、窓ガラスを叩きつけている。
晴臣は、トボトボともう一度ベッドへと戻る。
ベッドに潜り込むと同時に、寝ていた筈の健流に抱き締められた。
「臣、降ってた?」
「うん」
健流に上から乗られ、重みで声が途切れた。だけど、一言同士でも、全て二人の中で伝わってる。
まだ眠そうな健流に、頭をワシャワシャ撫でられた。
一度も晴れない、晴臣。
(何の取り柄もないのに、その上俺は本当に、雨男だ)
晴臣は改めて落ち込んだ。
再び目を閉じると、さっき見たときパラパラと小降りだった雨が、しっかりとした雨音に変わり耳に響く。
また睡魔に呼ばれて眠りに落ちようとしていたけれど、唇の暖かい感触で少し目を開けた。
健流に今年も朝一、口付けられていた。
ファーストキスは、小学3年生の今日。
健流からだった。
* * *
最初のコメントを投稿しよう!