はれおみ

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「オミ、おはよー」 ぺちぺちとおでこを叩かれ、晴臣は目覚めた。ぼんやりとした視界には、濡れた健流が映った。 「おはよう。たける、またベランダからきたの?あぶないよ……」 小一の時、ベランダを乗り越えて来てから、玄関からよりベランダから、直接部屋にやってくることが多くなった。 ベッドからだらりと落ちている手をにぎにぎされ、晴臣は次第に覚醒していく。 握られた手も濡れていて、晴臣は飛び起きた。 「え、そと」 「うん」 窓を見ると、雨が降っていた。 「おみ、おめでとう」 「おめでたくないっ!」 晴臣は健流の手を解き、寝返りを打った。 晴臣が生まれてから誕生日、毎年雨が降っている。 今日学校は休みで、二人して自転車で遊びに行く予定だった。晴れて欲しかったから、あえて外に出る約束をした。 「おみ、げんきだして」 健流はワシャワシャと晴臣の頭を撫でたけど、晴臣の機嫌は直らず寝た振りをした。 頬にポタポタと滴が当たり、晴臣が目を開けると、馬乗りになった健流の髪の滴だった。 「たける、ぬれてる……」 「あめふってるもん!」 「そうじゃなくて」 「あめふってるのに、べらんだからくるの、ほんとにあぶないよ」 今日ぐらい、玄関から来りゃいいのに。晴臣は首を傾げた。 「えーだって、げんかんからきたら、おみをおばちゃんがおこすだろ。そんときいわれたら、まけだからさ!」 「まけ?なにが?」 「おみにいちばんにおれが、おめでとうっていいたいから!おばちゃんに、かった!」 健流に満面の笑みで告げられ、晴臣もつられて笑った。 健流にほっぺをむにむにされて、いつもの悪ふざけのノリを振り払おうとしたら ちゅっ 健流の顔が不意に近づき、気がつくとキスされていて、晴臣は驚いた。 「なななな、なに?」 「……だいじょうぶ?」 健流の顔からは笑顔が消え、不安そうな顔だった。 「?」 「きもちわるくない?」 「きもちわる?」 気持ち悪くは、無かった。 「……く、ない」 「ほんと?!よかった!」 健流に笑顔が戻った。 「おまじないだ。たんじょうびぷれぜんと。らいねんは、はれますように」 また、ちゅっと唇を押し当てるだけのキスをされた。 「おみも、してみ」 「う、うん」 唇をちゅーの形に突き出した健流の顔に、少し戸惑いながらも、晴臣は窓の外を見て、願いを込めて健流にキスをした。   *  *  * ――あれから、十数年。 「お前の”おまじない”、ぜんっっっぜん効かない。騙された」 健流は、晴臣の言わんとしていることが解り、大笑いしている。 毎年、一日の内のいつかしら 地元から離れ、旅行に行ったら行った先でどこかしら 晴臣の誕生日には雨が降っている。 「俺、生まれた時も雨降ってたんだって」 「あーおばちゃんから聞いたこと有る」 「だから、名前に 晴 の字入れたんだって」 「そうなんだ!そりゃ知らなかった」 「小さい頃、友達に良く『はるってよまない!はれおみはれおみ』ってからかわれたけど……あながち間違っちゃ無いんだよな」 そんな親の想いは天に届かず。名は体を表さず。 一度も晴れない、誕生日。 毎年健流は朝一番におめでとうを言い、おまじないをするのが恒例なった。 「まあ、来年に期待して一緒に祈ろう」 「来年も、降ったら?」 「再来年に祈る」 「再来年降ったら?」 「ずっと、ずっとだよ。おめでとう」 健流は晴臣を抱き寄せ、優しくキスをした。 ーおしまいー
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