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「あー!ッテ!」
ソファに寝転がっていた健流が叫び声を上げた。
「オミ!!」
呼ばれた晴臣は着替えもそこそこに、健流の元へ駆けつけた。
「何?!どしたんだよ?」
「失敗した。爪、切って。」
ソファに座った晴臣に膝枕され、健流は手を委ねている。
「久しぶりに弾いたら、伸びてるから弾きにくくてさ」
「そうなんだ」
パチン、パチンと相づちのように爪を切る音が響く。
「俺、爪切るの下手なんだ。臣は人のなのに上手いな」
「上手いかな?健流が下手すぎるんだよ」
(器用な健流が、爪切るの下手な訳無い)
晴臣は、薄く笑った。
パチン
「はい、おしまい」
「サンキュー!臣!」
健流は手を翳して嬉しそうに笑って、爪切りが終わったのに、膝枕からどこうともしなかった。
けれど、晴臣も触れず。
(爪切りなんかを出来ない振りして……健流、俺にあまえてくれてる…)
何も出来ないけど、爪切るだけでも、助けになるなら
健流が元気で居てくれるなら。
弾きやすくなった爪で、また、聴かせて欲しい。
ー愛の夢 おしまいー
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