会社の話 2

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  「オミ、」 「何?」 風呂上り、髪をタオルで拭いていると健流に話しかけられ、手を止めた。 「お前さあ、本間部長と連絡取り合ってるの?」 頭に被っていたタオルを肩にかけ、健流の方を振り向くと、テーブルに置いていた晴臣の携帯を手に持っていた。 「なんだよ!勝手に見るなよ!」 「別に。ただ丁度オミが風呂入ってる時、着信煩かったから止めてやろうと思ったら、目に入っただけだ」 健流は憮然として、晴臣の携帯を再びテーブルに置いた。 「連絡取り合ってなんか、ないよ! 近況報告みたいな、定期的にどうだ?って聞いて来てくれるだけ。 多分、俺が新入社員の中でも頼りないから。歓迎会の時から気にかけてくれて……」 「わざわざ携帯で?」 「俺んところ、営業でも社用と個人携帯併用だから仕方ないだろ。ただの親切心だって。上司だし。他になにがある?」 「上司って言っても、部署違うのに?」 「そうだけど」 晴臣は続きを言いかけて、言葉を飲み込んだ。 本間部長は、入社時の面接官だった。 歓迎会の日「君の採用を決めたのは私だ」と告げられた。 晴臣の勝手な思いだけれど、うちはそんなに大きくはない会社だ。本間部長は自分が採用した子が出来が悪く、辞める事になっても困るから、気にかけてくれているのでは……と思う。 晴臣自身も期待に応えたい、という気持ちがある。がっかりさせたくない。 慣れない社会人生活で、精いっぱいの虚勢を張っている。 劣等感なんて感じたことの無いだろう、きっとそんな感情持ち合わせてない健流に、心情を話すのは憚られ、口を噤んだ。 「本間部長、か。解った。……ただ」 「なんだよ?」 「会社内か、文字だけのやり取りにしとけよ。な?」 黙り込んだ晴臣に健流は歩み寄り「風邪引くだろ」と、タオルを取り上げ晴臣の頭をワシャワシャ拭いた。 「わかってるよ……」 晴臣は健流に頭揺さぶられながら、消え入るような声で返事した。 -おしまい-
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