51人が本棚に入れています
本棚に追加
/72ページ
電車に乗ってからも心が逸り、駅から家までダッシュする。
「ただいま!」
「オミ! お帰り!」
やはり玄関先で待ち構えていた健流が、晴臣を待ち構えていて抱き締めた。
「早かったな」
「うん。明日も会社だし」
「はあ?それだけ?」
健流の腕に力が入ったのが分かった。
「いや、健流が、待ってるだろうと思って」
自信満々の健流に対して、いつもは憎まれ口を叩きがちで、素直になれない晴臣だけれど、今は正直な気持ちを口に出来た。
健流も少し意外そうに驚き、深いグレーの瞳を丸くしたが、満足そうに微笑み、晴臣を再びぎゅっと抱き締めた。
「樹、元気だったか?」
喋りかけながら、健流は晴臣のスーツに手を掛け脱がせにかかる。
「あぁ、元気そうだった。頑張ってるって言ってたよ」
「そうか。流石俺が認めた男、樹だ」
相変わらずの物言いに、晴臣は肩を揺らせ笑った。
「健流によろしくってさ」
「そうか。さては樹も俺が恋しいんだな。でも、二人で断じて飯は行かん!」
「健流ってば……『誰がお前を恋しいもんか』って樹に怒られるよ」
口だけは普通の会話をし、髪に、顔に、身体中に、当たり前の様に健流に触れられても、晴臣は身じろぎもせず身を任せたままだ。
今当たり前になっている事が、自分にとって本当はとんでもなく貴重で、感謝すべき事だと
久しぶりに樹に会って、今こうやって健流と居られて改めて思った。
健流と樹。
晴臣が他人に触れられても大丈夫な、唯一の二人。
二人の存在に心から感謝する。
-過去へつづく-
最初のコメントを投稿しよう!