唯一の二人

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電車に乗ってからも心が逸り、駅から家までダッシュする。 「ただいま!」 「オミ! お帰り!」 やはり玄関先で待ち構えていた健流が、晴臣を待ち構えていて抱き締めた。 「早かったな」 「うん。明日も会社だし」 「はあ?それだけ?」 健流の腕に力が入ったのが分かった。 「いや、健流が、待ってるだろうと思って」 自信満々の健流に対して、いつもは憎まれ口を叩きがちで、素直になれない晴臣だけれど、今は正直な気持ちを口に出来た。 健流も少し意外そうに驚き、深いグレーの瞳を丸くしたが、満足そうに微笑み、晴臣を再びぎゅっと抱き締めた。 「樹、元気だったか?」 喋りかけながら、健流は晴臣のスーツに手を掛け脱がせにかかる。 「あぁ、元気そうだった。頑張ってるって言ってたよ」 「そうか。流石俺が認めた男、樹だ」 相変わらずの物言いに、晴臣は肩を揺らせ笑った。 「健流によろしくってさ」 「そうか。さては樹も俺が恋しいんだな。でも、二人で断じて飯は行かん!」 「健流ってば……『誰がお前を恋しいもんか』って樹に怒られるよ」 口だけは普通の会話をし、髪に、顔に、身体中に、当たり前の様に健流に触れられても、晴臣は身じろぎもせず身を任せたままだ。 今当たり前になっている事が、自分にとって本当はとんでもなく貴重で、感謝すべき事だと 久しぶりに樹に会って、今こうやって健流と居られて改めて思った。 健流と樹。 晴臣が他人に触れられても大丈夫な、唯一の二人。 二人の存在に心から感謝する。 -過去へつづく-
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