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「ノートありがと」
週明け、樹は晴臣に会った。樹の予定に合わせて早く来ると連絡があった。
手渡されたノートから視線を上げると、就活用に染められていた黒髪から、元に戻って茶髪の晴臣が居た。
(もう、腹決めたんだな)
新しい所を探さないから、戻したんだろう。
晴臣は元々地毛が茶色で学生時代、先生や風紀委員に度々因縁付けられていた。
入社面接はそんな言い訳通用しないから黒に染めていた。
(健流と一緒の所に行く事、納得したのか)
樹は言いかけて止めた。そこは触れない方が良い気がして、関係のない共通の趣味の音楽や漫画の話をして、談笑した。
――晴臣と樹が仲良くなったきっかけも、中学の時、趣味が合ったからだった。
同じクラスになった時雑談から仲良くなり、休み時間つるむようになった。
その頃、樹少年は何故か違和感を感じた。他の友人と様子が違う。
(?)
休み時間、晴臣と話していると、右隣に見慣れない、同じクラスじゃない奴が晴臣の右隣に居て、話を聞いていた。
(誰?)
はっきり聞く事が出来ないまま、身を持って色々な出来事を体感することで、樹少年はその謎の人物を知っていく事になる。
晴臣とは別々の高校になったが、友人関係は続いていて。同じ大学に進学する事になって、また同じ学校になった。
大学で再会した樹青年の目の前には、中学の時見たままの光景があり、白目をむいた。
晴臣の右隣に、変わらず健流が立っていた。
(何故?)
樹は核心を聞けないまま、二人の関係をあらゆる体感し、現在に至る。
「なあ、晴」
薄ぼんやりと昔の事を思い出していた樹は、核心に触れないまでも、昔から気になっていた事を聞いてみた。
「何?」
「なんでさお前の事、周りの奴……俺もだけど、全員 晴(ハル) って呼ぶのに、健流だけ臣(オミ)って呼ぶんだ? なんか理由、あるのか?」
他の友人も、晴臣の家族も、皆ハルかハルオミだ。
「呼びやすいし、普通呼び名なんて名前の上を大概取るだろ」
「確かにオミなんて、あいつしか言わないな」
晴臣は爪をかみながら、眉根を寄せた。
「物心ついた位の時は、あいつもハルって呼んでた気がするんだけど。幼稚園行きだして、周りの大人とかクラスの子がハルって皆呼んでくれる頃には、オミって呼び出してたな。ほんと、なにきっかけだろ?意味あんのかな?聞いてみた事ないけど……」
小首を傾げてる晴臣を、樹は半笑いで眺める。
「なんだよ」
「皆と一緒が嫌だったんじゃないか? 自分だけの呼び名がさ」
「ま、まさか! 幼稚園ん時だよ。まだそんな時にそんな事考えるか?」
「答え合わせしてみる?」
樹は笑って深く息を吸い、いつになく声を張り、晴臣に話しかけた。
「あ、前借りた本、今度返すわ。オミ!!」
途端、雑多な談話フロアの何処からともなく足音が聞こえる。
「樹ーー! お前は唯一認めた男! だけど、いくら樹でもオミと呼ぶことはゆる……」
「晴、俺の正解だな」
背後から聞こえる声を、最後まで聞くまでもなく、樹は席を立った。
「樹、まだ話終わってない!」
血相変えた健流は樹に噛みつく。
「あー?もう二度と、”オミ”なんて頼まれても呼ばないから安心しろ。さっきのはノート貸し代だ」
樹は笑って二人を残し、去った。
ープロローグおしまいー
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