唯一が二人になった時

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――思えば、兆候は有った。 小さい時、お呼ばれして、ご馳走に凄く嬉しいはずなのに、友達の家のご飯がのどを通らず、吐き出した。 けれど健流の機転で揶揄われず、トラウマになる事もなかった。 無機物に関しては、練習も出来れば融通も利く。 事情を知っている健流の助けもあり、徐々に克服しつつある。 だけど、対人となると……練習も出来なければ、予測も出来ない。 相手を傷つければ、一発で人間関係がアウトだ。 実際全く嫌悪感もなければ、相手に何の非の感情もない。 むしろ嬉しい感情だってちゃんとあるのに。 晴臣は他人に不意に触れられると、身体が無意識に拒絶反応を起こす。 自分からだとか、行事で手をつなぐだとか、体育の時間だとか 触れるという事を予測しそういう事をすると前もって理解できていると、学習能力の賜物でなんとか平気になった。 けれど、ふざけてや親しみや好意を持ってのスキンシップを突如やられると…… 友人関係や気になる子からの信愛度を表す行為であり、頭の中では嬉しいのに… 身体が強張り、表情が固まり、鳥肌が立つ。 いわゆる嫌悪感が身体を襲う。 昔、優しくて良い子だなと思っていた子に、不意に腕を持たれた途端、晴臣はときめくはずが硬直して、何も喋られなくなった。 友達とゲームをしていて勝った時、褒め称えて肩を組まれて、嬉しいはずなのに、喜んだ顔が出来ず冷や汗が出た。 (なんで……なんで……) 晴臣自身がその事実に薄っすら気付き始め、その度に自分が自分で判らず、幼いながら悩み不安を覚えだした頃 健流には告げる間もなく、もうバレていた。 学校から帰って、しょんぼり部屋の隅で体操座りをしていた晴臣を、健流は抱き締めて頭を撫でてくれた。 物心ついた頃から、さんざん触って来た癖に、まるで壊れ物を扱うように触れてきて。 いつもと違う健流の様子に驚き、晴臣は顔を上げた。 仰ぎ見た小学生の健流の顔は、今見せた同じ表情をしていて 「おみ、だいじょうぶ?……おれは、だいじょうぶか?」 この一言で、全て悟られている事を知った。 「うん。たけるは……だいじょぶ!」 晴臣はわんわん泣きながら、健流に抱き付き返した。
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