唯一が二人になった時

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「晴、ずっと聞いてみたかったんだけど、お前染めてないんだよな?」 とある休み時間、樹に頭を指さされ問い掛けられた。 「あぁ、髪?そうなんだ。茶色いだろ。中学入学した頃は、随分先生にも疑われたよ。生徒手帳に書かれてあるんだ。地毛って」 「やっぱりそうか。お前の性格染める様な奴じゃないし、でも茶色いなって疑問だったんだ」 「樹の言う通り!俺、そんな校則破る勇気無いって。でも、”地毛”って備考欄おかしいよな」 「そうか、でも先生疑うの判るな。本当に茶色い」 樹との他愛のない会話中、完全に気の抜けていた晴臣に向かって、不意に樹の手が伸びてきた。 驚く間も、避ける間もなく、晴臣の髪に樹の手が触れた。   「!!」 晴臣は漸く樹の手に気付き、初めて不意に触れられてしまった出来事に、身体を硬直させた。 (……あれ?) 晴臣の引き攣った顔が、次第にほぐれた。その代わり、眉根を寄せる。 (いつもの感じが、まるでない) 吐き気も鳥肌も冷や汗も、嫌悪感に襲われなかった。予想もしていなかった事実に、晴臣は戸惑う。 「ん、どうした?晴の顔、百面相みたくなってるけど」 樹は笑いながら、手を髪から移し、晴臣の額を軽く小突かれ、額に掌が確かに触れた。 (やっぱり、なんともない) 「い、いや……どうもしない!」 晴臣は動揺を隠し、笑って誤魔化した。 (樹には、触られても、大丈夫なんだ!) 樹も意味は良く分からないまま、晴臣につられて笑って居た。 二人でゲラゲラ笑っている時、漸く周りが見えた。晴臣の視界の端に居た。健流が。 教室の扉に手を掛けて、入ってこずに、じっとこっちを見ている様で。 いつから居たのか、晴臣は気付かなかった。 晴臣と樹が笑っている中、二人を見ている健流だけは、笑っていなかった。
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