唯一が二人になった時

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「あぁ……夢だったら、良かったのに……」 夢であれと願った出来事は、紛れもない現実で。夜眠れなくとも、朝はやって来た。 「晴、ごはんもう良いの?」 「うん……」 「食欲無いのね。風邪引いたのかしら?」 「大丈夫だよ」 「また窓開けっ放しにして寝てたんじゃないでしょうね。夜は冷えるのよ」 風邪なんて引いてないけれど、食欲は沸かない。昨日閉めずに居た窓から、再び健流は来てくれなった。 「あら、もうこんな時間?!晴、早く行く学校行きなさい遅刻するわよ!」 母親が時計を見て驚き、視線は玄関へ向けられる。 「いつもきっちり同じ時間に健流君が迎えに来てくれるから、母さん時計なんて気にしたことが無かったわ。今日は来ないわね。どうしたのかしら」 「……行ってきます」 母親の問い掛けは聞こえないふりをし、力ない足取りで、晴臣は家を出た。 玄関を出ても、隣の扉にも、いつも元気いっぱいの健流の姿は無かった。 初めて一人で通学し、教室にたどり着くと、そこには健流の姿があった。 樹と健流が二人で話している。昨日までの風景がそこにあり、安堵する。 「健流!!」 「オミ、おう……おはよう!」 健流はいつもの調子で元気に挨拶を返してくれた。 晴臣が喜んだのもつかの間、即座に気付いた。健流の瞳には、光が見えない。 「健流、あの、」 予鈴が鳴り、健流はいつもの笑みを浮かべ、教室から走って出て行った。 「おはよう、晴」 「あ、あぁ、樹。おはよう」 「健流の奴にさ、さっき『オミとこれからも仲良くしてやってくれ。よろしく頼む』って言われたんだけど。アイツが俺に頭下げるだなんて、なんか変なもんでも食ったんじゃないか?」 「健流が?」 笑いだした樹にバレない様、晴臣も声だけ笑い声を立てた。 心の中は、全く笑えやしなかった。晴臣はどうする事も出来ず、どうすればいいのか判らないまま、日々が過ぎた。 *  *  *
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