唯一が二人になった時

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沈黙の所為で、空気が張り詰めた。 「俺、ちゃんと健流と話がしたくて」 「それは俺の台詞だ。臣にちゃんと謝らなきゃって思ってたけど、謝って済む問題なのか、って思ったら……」 晴臣が口火を切った途端、健流が胸に溜まっていた物が辛かったのか息堰切って話出し、そして項垂れた。こんな健流を初めて見た。 「でも、臣が普通に接してくれるから、それに甘えてた。……ごめん。もう、臣が拒否る事は一生しない。二度と触れない。絶対。だから、その代わり臣の傍にいさせてくれ。それが許され無かったら……正直俺、生きてくのがキツい……」 (『一生,絶対』とか『生きてくのがキツい』とか…なんて言葉を口にするんだよ) 晴臣は唇を噛み締めた。 「健流、謝るの止めて。こっちを見て! なんでも先走って決めつけないで! 俺の話、口挟まないで最後まで聞いて!」 晴臣は健流の肩を掴み、初めて健流の口を制した。 「あの時の事、そりゃ怖かったよ。確かに拒否った。だけど、止めて欲しかったのはあの日だからであって……うまく言えないけど、これだけは解って。 俺、あの時の健流の気持ち、全部解ってるよ! どれだけ一緒にいると思ってるんだよ。だから怒ってない!そんな事言うの止めて!」 晴臣は健流の手を取り、自分の頬に当てる。 「健流、触ってよ。俺を」 指に晴臣を感じ、健流は初めて顔を上げた。 「樹に触られて平気だった。他に大丈夫な奴がいる事自体がすごく嬉しかったんだ。確かに樹は二人目だよ。 だけど、俺が触って欲しいと思うのは、健流だけ。健流一人だけだよ。それから、お願いだから安心してよ。健流は触られてダメになんてならない。一生大丈夫だよ」 晴臣は健流の腕を引っ張った。よろけて歩み寄った健流に、触れるだけのキスをし、健流の胸に顔を埋めた。 「今日は、健流に触って貰いに、来た。一週間、寂しかった。生まれてから先週まで、ずっと触って来た健流の所為だからな」 「臣……」 「健流、俺も謝らなきゃ。ごめん。言わせなかった、言わなかった。 好きだ」 晴臣は呟いて、大きく息を吐いた。この一週間、ずっと伝えたくて言おうと決めていた事を、全て吐き出せた。
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