51人が本棚に入れています
本棚に追加
/72ページ
――大学生活も二年が過ぎ
高校が離れた樹とも、まさかの同じ学部で再会出来て、学校生活も小慣れてきた。
晴臣は健流より一足早く二十歳を迎え、大人になった。
健流との関係は変わらず、というか深くなる一方で。
元実家の一人暮らしと、郊外の自宅との二重生活から親に遠慮なく、健流との密な時間を過ごせるようになった。
身体の関係も日常化し、学校もバイトも一緒だ。
晴臣自身、健流の事はかけがえなく好きだし、気持ちにブレもない。
けれど、晴臣の胸中で隠しきれない葛藤も有る。
「臣、今日は何時に帰ってくる?」
健流に帰宅時間を問われた晴臣はシカトした。
「オミ、返事は!?」
無視し続け席をはずした晴臣の背に、叫んでいる健流を見て「まるでオカンと中二だな」と樹は肩を揺らせ笑った。
健流と一緒に居るのは幸せで、何より楽で安心できて。
物心ついた時からずっとだから、一緒に居ない生活なんて想像できない。熟年夫婦が良く言うように、空気のような関係だ。
成人して、晴臣は改めて自分を客観的に見つめてみた。年は大人になって、自分は大人になったのか?
幸せで楽で安心できて頼れる健流がずっとそばに居てくれて……麻痺している?
さっきも健流の声を無視した。
(何時に帰ろうが、俺の勝手じゃないか。いい年して心配されるのもおかしい!それ以前に健流は…過干渉だ!)
晴臣は足早に、教室を出た。
今日、健流はバイトが休みで、晴臣は入っている。
「晴、頑張ってるな」
「あ、先輩、お疲れ様です!」
3月までここのバイトに居たが、大学を卒業して就職が決まって辞めた先輩。
一緒に働いている時もお世話になったが、今でもしょっちゅう顔を出して声をかけてくれる。
出会った頃から親切で、面倒見が良く可愛がってくれた。
晴臣から見れば、随分大人に感じていたが、会社帰りに顔を覗かせてくれるそのスーツ姿は、更に自分が未知な大人を感じさせる。
晴臣が休憩時間、他愛ない話をして帰る。就職祝い、親に車を買って貰ったという話を聞いて、驚いた。
「お家お金持ちなんですね、バイトしなくてもよかったんじゃないんですか?」と晴臣が聞くと
「バイトは趣味だったよ。晴にも会えるしね」と笑って言われた。
話す時、一定の距離感を保ちながらも、先輩の冗談に晴臣は笑って返した。
最初のコメントを投稿しよう!