遅れてきた反抗期

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「お帰り!」 晴臣が玄関を開けた途端、健流が飛んできた。 「……ただいま」 大学で無視をして別れたので晴臣は気まずく思い、実家に帰ろうかと思ったが、バイトで遅くなったので郊外に帰宅する気が削がれ、元家に帰った。 健流は案の定、待っていた。 打たれ強いというか、晴臣の小さな抵抗も意に介さずあっけらかんと出迎えた。 「遅かったな」 「そう?」 バイト終わり、先輩に話し掛けられ少し留まった。 「明後日さ、俺も臣もバイト休みだろ?どっか行こう!」 「あ、明後日は……約束が、有る」 「え?誰と?」 「誰でも、良いだろ」 「別に臣が友達と会おうが俺は全然OKだ。だけど名前を、何故言えない?俺の知らない相手?それとも、言えない相手?」 「っ、そんなんじゃ!」 言えない訳じゃない。過干渉な健流に対するただの意地だ。 だけど、疚しい事一つもないのに、言えない相手だと思われるのも癪だ。晴臣は唇を噛んだ。 「先輩だよ」 結局、口を割った。 勿論、晴臣だって個人的に友人と遊びに行く事だってある。健流も咎めない。 年を追うごとに、接触から上手く避けるスキルも上がっている。 日常起こる軽いタッチなど、多少なら耐えられる様にもなり、健流もその事を知っている。 けれど、先輩の名を聞くなり、健流の顔色が変わった。 「臣、止めておけ」 「健流も知ってる人だし、安心だろ?!」 同じバイト先で、健流も先輩とは同じ期間過ごしているから、人となりだって知っている。 「あの人もうバイト辞めて就職しているだろ? 今も会ってるの? 今日会って遅くなったのか?」 「そんなんじゃ……今も様子、見にきてくれるんだよ。だから今日もバイト先に来ただけで、別にどこかで会った訳じゃ…」 「ふーん、バイトに様子見に来るんだ。臣の」 「そんな言い方止めろよ! バイトの様子を、だろ?」 「俺だけが入ってる時や、俺と臣が入ってる時は一度も来ないけど。二人が入ってる時来たか?思い出してみ」 健流に半目で睨まれ、より深いグレーの瞳が晴臣を射抜く。 (そう言われれば) いつも先輩が顔を出すのは、晴臣が一人のシフトの時だけだ。健流だけの時の様子は知らないから、顔を出しているのかとも思っていたし、言われるまで気にも留めていなかった。 「健流と居る時は、来てない……」 「そら、見てみろ。多分俺は邪魔なんだろ。一緒に働いてる時も、臣に対しては特別な態度だったから、辞めてくれて正直ホッとしてたんだ。だのに、来てるのか。 臣に興味があるんだよ。はっきり言えば、臣が好きなんだろ、アイツ」 確かに健流の言う通りだけれど、その後の物言いには反論がこみあげる。 「先輩、男だよ?そんな俺を好きとか、俺達じゃあるまいし」 同性に対して恋愛感情を持っている人に、晴臣は今まで会ったことが無い。自分達以外。 自分は特殊な生い立ちで、こんな風になったけれど、それは滅多にない事で。 晴臣は今まで世間と自分達を別個に考えてきた。 だから、健流には嫉妬心は有るけれど、世間体を考えて高校時代女子と遊ぶ事を勧めてきたし、周りにもひた隠しにして来た。自分達位だろうと思っていたから。 「あのなあ、臣。自分が出会った事が無いからってそれが全てな訳ないだろ。お前が隠してる様に、今まで会った人達も隠しているかもしれないって思わないか?臣が知らないだけで全然いるよ。ったく、世間知らずなんだから」 「なっ、なんだよ!! 馬鹿にするな!!」 健流の正論に、晴臣は激高した。内容じゃない。健流が言った事は晴臣を論破し、完敗だ。 だけど、『世間知らず』と子ども扱いされ、怒りに震えた。 (『世間知らず』確かにそうかもしれない。けど、俺はいつまでも子供じゃない! ましてや同い年の健流に言われて) 「ん? 臣、何? 何怒ってる?」 「もう、ほっといてくれ!!」 晴臣は自室に逃げ込んで、鍵を閉めた。 健流がドアを叩く音を聞きながらも、無視し続け眠った。 晴臣が翌朝起きた時、健流の姿は無かった。 ただ、テーブルの上に、おにぎりだけが置いてあった。そう言えば、昨日は夜も食べずにそのまま寝たからか。 「健流……」 朝食代わりに、健流が握って置いてくれていたおにぎりを口にする。 一人食卓に座り、昨日の出来事を思い出しながら食べると、味がしなかった。
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