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先輩が食事を奢ってくれたのは、ランチで。
夜、酒を飲まされたら断ろうと身構えていた、晴臣の緊張が緩んだ。
ランチと言いながら、コース料理で見た事のない昼食だった。
終始先輩は優しくて、晴臣に対して良い事ばかり言ってくれた。
こそばゆい感覚もありながら、恋愛感情が無いと思えば良い関係を築けそうだと思った。
食事が終わって、ドライブに連れて行かれた。その間も、優しいいつも通りの先輩で。
日が落ちると共に、空気が変わった。
辺りが暗くなった頃、車も人気のない暗い所に停められた。
「ここ何処ですか?」と聞いた返事の代わりに、先輩の腕が伸びてきた。
驚く暇もないほどで、全身が硬直して鳥肌が立った。
知らない間に先輩のシートベルトは外れていて、覆いかぶさって来た。
「ずっと好きだったんだ」「いいだろ?」と囁かれキスされた。
身体が震えて、「やめてください」と泣き声で何度も懇願し、顔だけ何とか窓側に背けたら、服の中に手が忍び込んで来た。
手を振り払っても、いやらしい動きでまさぐられ、晴臣はもうパニックになり我慢できず
顔を背けていた、ドアに向かって……車内で、吐いた。
晴臣が嘔吐した後、車内の空気がまた変わった。
先輩は途端に不機嫌になり、晴臣を押し退け、キレ気味で車の様子を全力で心配しだした。
晴臣は謝り始末を手伝い、痕跡は消えたけれど、聞く耳持たず嫌事を言う先輩との空間にいたたまれず
車から飛び出し、闇雲に走って逃げた。
自分が何処に居るかも判らない。
ただ、ひたすら歩いて街の賑やかな灯りを目指した。
歩きながら、笑えてきた。自分の馬鹿さ加減に。
先輩は優しく良い事ばかり言っていた。
だけど、吐く数秒前まで゛好きだ゛゛大事にする゛と言われていた自分は……
親に買って貰った車以下の存在なんだと、知らしめられた。
(健流は小1の歳で、俺の吐いた後始末をして、何より心配して庇ってくれた。)
何とか見知らぬ繁華街に辿り着き、そこで精も根も尽き果てた。
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