おにぎり

3/3

51人が本棚に入れています
本棚に追加
/72ページ
次の日、晴臣は学校を休んだ。 学校に通い始めたばかりで、人生初の登校拒否をした。 親の心配をよそに、晴臣は布団にくるまって、一日何も食べず。部屋からも出ず。眠ったり思いだし泣きしている間に、日が暮れていた。 「オミ!!」 突然聞きなれた声がして晴臣は驚き、掛け布団の間から少し顔を出すと、そこには居るはずのない健流が立っていた。 「タケル?!なんでいるんだよ!」 部屋の鍵はかけている。 健流は晴臣の顔を見ると、得意げに窓の外を指さした。ベランダをどうにか伝って、来たらしい。晴臣はびっくりして、涙が止まった。 「オミ、だいじょうぶか?」 「……」 「おなか、へってない?」 食べ物の話。今一番地雷な事を言われた晴臣は、叫びながら健流を突き飛ばして、布団にくるまった。 「オミ、オミ!」 ベッドに健流も転がり込んできた。 「これ」 二人が入ってかまくら状態の掛け布団。隙間から、夕日が射し込む。薄暗い中で見たものは、銀ホイルにくるまれたおにぎり。 「おれ、にぎってきた。おれがつくったやつ」 健流が晴臣の口元に持っていく。 「たべれるか?これ」 一日何も食べてない。だけど、昨日の事が思い出されて、晴臣の視界が滲む。 目の前に、健流に差し出されたおにぎり。晴臣は何分も固まっていたけれど……一口、口にした。 何故かのどを通った。 「……おいひい」 食べられた喜びが沸きだした晴臣より、健流が大喜びして、晴臣に抱きついた。 (タケルのは、たべれた……) 「オミ、おれのはだいじょうぶ! やったーーーーー!! よかった!」 一口飲み込んだ後、残りも全部食べられた。その後お腹が鳴って、二人で大笑いした。 翌朝、家におよばれしたのに粗相をしたクラスメイトに会いたくなくて、学校行くのはゴネたけれど 健流に引っ張られて、嫌々登校した。 無視されたり怒られるのかと怯えていたのに、皆笑って、普通に迎えてくれた。 晴臣が立ちすくむ前に、健流が中心になって、盛り上げて話して。休んだ日に、健流が何を言ってどうしてくれたのかは解らないけれど、晴臣が登校した時、みんな笑顔で迎えてくれた。 その後も、知らない人の手作りの食べ物は苦手だ。 だけど、食べなければいけない機会に出くわす度、健流は先手を打って、あのてこの手で助けてくれて。 それから、徐々に克服出来た。   *  *  * そんな頃から、そんな今でも……健流は晴臣にずっとおにぎりを握ってくれる。 晴臣は、数え切れない程たべたけれど、何度食べても、今でも、多分これからもずっと 食べる度、胸がぎゅっとなって……たまに、堪えきれなくなって、おにぎりがもっとしょっぱくなる。 (恥ずかしいから、健流には言わないけど) 「オミ! ただいま!!」 隣の家に、叫びながら健流が駆け込んできた。 「タケル、お帰り。……ごちそうさま」 「ごちそうさま?何言ってんだ、今から一緒に飯食うのに!」 健流は、夕飯を翳して振り回している。 「あぁ、ありがと」 ーおにぎりおしまいー
/72ページ

最初のコメントを投稿しよう!

51人が本棚に入れています
本棚に追加