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「はい。代わりに此方にお伺いしたと申しましたが、僕の一存で僕が勝手にした事です。
部長とのやりとりを決して水瀬が口外した訳ではありません。水瀬自身からは一言も聞いた事もありません。それだけは誤解無きよう心から願います。
言い訳になりますが水瀬が置き忘れた携帯を、たまたま僕が見てしまった為です」
「……一番聞きたい事の前にも、疑問が有りすぎて話が見えないな。順を追って返事を聞かせてもらおうか」
「ごもっともだと思います。こんな失礼な事をして……話を聞いて下さるお心だけでも、僕は…有難いです。全て正直に話します」
「『たまたま携帯を見た』私にはそうするしかないから、君の説明を鵜呑みにしたととしよう。
入社したばかりなのに、随分水瀬君と君は親密なんだな」
「はい、大学が一緒でした」
「それは、知っている。親睦会で話を聞いた。後日整理していた履歴書で、高校も一緒だと知った。履歴書は高校までしか記載されていないが、住所はまるで違っていたから、さして気にも留めていなかったが……」
「そうでしたか。仰る通りです。水瀬は引越ししましたが、元々近所に住んでおりまして、旧知の仲です」
「旧知の仲? 会社に二人示し合わせて入ったのか?」
「いえ、別々に受けました。水瀬は僕が受ける事すら知りませんでした。確かに同じ所を受けましたが、試験を受けて、面接を受けて…合否は会社が。受ける僕達に、示し合わせて入る事は不可能です」
「……それは、そうだな。それに私は殆どの社員を面接したが、たまたま君の時は所用で出来ず他の者がした」
「はい、僕の面接時、本間部長はいらっしゃいませんでした」
「面接はしていないが、君の事は、入社してから噂でかねがね聞いているよ。出来が、良いと。冴木君」
「そうですか、有難うございます」
「……ハァ、良くこの状況で嬉しそうな顔をして、礼が言えるな」
「すみません。お言葉が、褒めて頂き嬉しかったのでつい。すみません」
「本当に本題に入ろうか。どうして今日、君がここに来た?」
「『どうして、ここに』……見過ごせなかった、からです」
「見過ごせなかった?」
「はい」
「起こりうる惨事を、予想が出来る身で、僕だけがそれを防げるかもしれないのに…そう思うと、見過ごせませんでした」
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