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「それは、どういう意味だ?可愛がって貰っている、西野女史の入れ知恵か?”旧知の仲”の同僚が、上司の無理強いの元、何かしらの行為を受けるとでも、思ったのか?正義の味方としては、助けるしかなかった、とでも?」
「違います!」
「何が違うんだね?同性をもセクハラする上司とでも思って……」
「違います!断じて! お願いします事情を、聞いて下さい!
水瀬と本間部長の、確立された信頼関係の仲に立ち入る気もありません。部長は合意の下で相手の意思を尊重なさる方だと、僕は思っています。水瀬が部長に、そういう関係を望めば何も僕はいう事はありません。……ですが」
「ですが?何だ」
「それは、社外の関係であれば、です。同じ会社の中では、水瀬の事を唯一知っている僕は…どうしても、止めると言う選択肢を選ぶしかなかったんです」
「意味がわからん……」
「『旧知の仲』だからこそ、知っている事なんです。
水瀬は、他人に触れられると……吐くんです」
「触ると……は、く、?」
「はい。嘔吐 です。昔からで、以前出来事もありました。
吐く相手かどうか、実際そうならないと本人にも解らないんです。そこには相手に対して悪意も無ければ、生理的嫌悪感もありません。
それは本人には、予測も出来なければ、コントロールも出来ません。本人も思い悩みながら言い出せず、今日まで来てしまったのだと思います」
「まさか……」
「冗談でこんな話、思いつきもしません。
部長は水瀬にとって、もしかすると大丈夫な相手かも知れません。だけど、万が一……二人の間でそんな事が起こってしまうと、水瀬は罪悪感で出社出来なくなるかもしれない。
部長も大きな心の傷を負われるでしょう。
どちらも何も悪くないのに、そんなに悲しい出来事はないでしょう?
もう二度と会わない相手ならどうにでもなると思います。ですが、同じ社内の部下と上司で、そんな惨事が起こってしまったら……何一つ、誰一人良い事ない。不幸しかありません」
「……」
「ですから、失礼を承知で僕が来ました。僕の大事な二人が、悲しむ所を見たくなかった……」
「事実、なんだな?」
「誓って嘘はついてません。こんな所まで来て」
「あぁそう、」
「君は、大丈夫なのか?触れても」
「はい、僕と友人もう一人は、今までで唯一」
「……ハッ、私に君は”僕の大事な二人”…とさっき言ったが、大事なのは水瀬君”一人”の言い間違いじゃないのかね?
それとも、会社の立場を考えて、私にお世辞を?今更…こんな話をしていて、そんなよいしょ不要だろうが」
「本間部長、僕はこの部屋に入った時に申し上げた筈です。
全て、正直にお答えします、と。僕は、本心しか言っていません。お世辞も何もありません。この会社で、水瀬も、本間部長も……僕にとって大事です。ご存じないですか?見て下さってると思いましたが」
「……何を、だね?」
「僕は、新入社員研修後の希望部署のアンケートに、人事部 と書きました。
こんな事が起こるずっと前から、僕は本間部長の下で、働きたいと思っていました。目を通して下さっていると、思ってましたが」
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