51人が本棚に入れています
本棚に追加
先に風呂に入り、バスローブを纏い、ベッドに腰掛けている部長の隣に、風呂上りの健流も座った。
「本間部長」
「なんだ」
「部長は、上ですか?下ですか?」
「ハァ?」
「僕は、どっちでもいいです。」
「何を言っている……」
「僕は、此処へ水瀬の代わりに来ました。今日、代わりにはなれませんか?」
健流は今日一日、自分が乗り込んだせいで、非の無い本間部長の休日を無駄にし、プライドを傷つけた気がして居た堪れない思いがしていた。打ち解ければ打ち解ける程。
晴臣の代わりが務まるとは思ってはいないが、晴臣から受けた高校時代のお達しから身体の関係を持つことにあまり抵抗がない。
その上、アルコールも手伝い、思い描いていた以上の部長の人となりを知り「この人となら良いか」と本気で思った。
「……なんの冗談だね」
「不躾にすみません。それに多分僕は、水瀬と違って可愛くもなく。こんなに無遠慮で失礼で……部長の好みでもないでしょう。解っています」
今日出会った時から、冷徹でクールな表情に今は朱がさしている本間部長の膝に手を置き、健流は見つめた。
「君は、その気があるのか?」
「その気……あぁ」
健流は本間部長の示唆する、同性愛嗜好の問い掛けを理解した。
「僕は、どちらでも」
「そうなのか」
「ですが、誰でも良い訳じゃないです。僕は、尊敬してる本間部長なら」
本間部長は健流の手を振り払いはせず、顔を覗き込んできている健流の前髪を掻き上げた。
「君は、本当に綺麗な顔をしている」
「有難うございます」
少し目を伏せ深みを帯びた健流の瞳を、本間部長は覗き込んできたから、健流は目を閉じた。
嗅いだことの無い大人の香りに纏われ、唇に、初めての感触を受け、健流は恐る恐る本間部長の首に腕を回し、抱き付いた。
回した腕は振り払われることなく、そのままベッドに雪崩れ込み、健流はベッドに沈められ頬を顔を撫でられ、緩いキスが長く続いた。
健流は次の行為を感じ、自ら着衣に手を掛けた時、不意に身体を離され、驚き目を開いた。
健流の視界には、乱れたバスローブの合わせを座って直す本間部長の姿があった。
「……やはり、僕ではだめですか?」
「気に入った新入社員をこんな所に呼び付ける私が言っても、説得力はないかもしれないが……こんな私にもポリシーが有る。君の瞳のせいで危うく忘れかけたが」
本間部長は裸眼の目を細め、健流の瞼を親指の腹で優しく撫でた。
「私は、直属の部下とは
決して関係は、持たない」
ーおしまいー
最初のコメントを投稿しよう!