愛の、夢

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日々、失敗と勉強を繰り返しながらも社会人として頑張り、忙しく毎日を送っている晴臣に、実家から電話が有った。 最近は元のマンションからしか通っておらず、久しぶりに聞く親の声だった。 「え、マジで?!……そう……」 晴臣は力なく携帯を置いた。 スーツから着替えも忘れソファに座り、ただ、健流の帰りを待った。 * * * 「オミ!帰ってるか?!」 やがて、いつもの健流の元気な声が、聞こえて来た。 「あぁ健流、おかえり」 「ただいま。どうした?元気ないな? どっか具合悪い?」 晴臣がぽつんと座っているソファーめがけて健流は走り寄り、健流が横に勢いよく座ったお陰で、晴臣の身体が弾む。 「いや、あの、」 晴臣は健流に急かされ、どもる。 (健流、ショック受けるだろうな) 親から聞かされた話を、健流に告白するのは心中を察し、戸惑う。 「どうした?何?」 人の心しらずな健流の催促に耐え兼ね、晴臣は口を割った。 「実は、さっき親から電話が有って……この家、売れちゃったらしい」 「え、マジで!?」 案の定、健流は驚いて目を見開き、晴臣と同じ言葉を発した。 ここを親が売り払い、郊外に引っ越すという話になった時、健流の絶望した顔を晴臣は忘れられない。 結局売れずに今まで来て、この都合の良い生活が出来たが……ここが売れてしまうと、もうそんな訳にはいかない。 健流には隣に健流の家があり、晴臣は郊外の自宅に腰を据える事になる。 事実を告げてから健流の悲しむ顔を見るのが怖くて、晴臣は俯いていた。 「臣」 視界にある手を健流に握られた。 「そうか!売れたのか!良かったな!」 「?!」 力一杯掴まれた手を、健流にブンブンと振られた。 慌てて見た健流の顔は絶望どころが、何故か希望に満ち満ちた顔をしていて、晴臣は呆気にとられる。 「何が、良かったんだよ?!」 「だって、おじさんやおばさんにとっては良い事だろ?」 「そりゃそうだけど……」 「就職してから密かに考えてた事が有ったんだけど、踏ん切りがついた!」 「何を?」 「俺、家買うわ」
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