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「健流の、バカーーーー!!」
晴臣は握られた手を振り払い、健流を平手打ちした。
生まれて初めて人を殴った所為か、掌の震えが止まらない。
「こんなに毎日居て……俺の事、好きだなんだって言っといて……俺の気持ち、解んないのかよ?!
どうしてもいつも自信満々なのに、俺の事だけそんなに自信ないんだ?!」
晴臣は、呆然としている健流のネクタイを掴み、引っ張り身体を揺らす。
「そりゃ、確かに……大学の時までは、俺も俺自身を、解らなかったよ! ラブホで同じ事言われた時にも、否定はしなかった。
健流は気付いたらもう出会ってて、傍に居たから勿論俺にとっても、健流は唯一無二の存在だけど、だけど……
健流が言うように、そうじゃなくて、突然出会う運命の人が居て、万が一触れられて大丈夫な人が現れるかもしれないって、心のどこかで思ってたのも事実だよ!」
晴臣は、震える声を抑える為に、息を飲む。
「だけど……もう、俺はとっくに……とっくに
お前が同じ所に就職決めた時から
自分の髪の色戻した時には……もう腹決めたんだよ!!」
---あの時
今まで抽象的に何かだった物が
逃れられない、決して運命じゃない物だと
心の底からハッキリ痛感実感した時
(俺の人生は、健流と共にって)
「社会に出て、大人になって……自分の意志で初めて、自分の事を決めたんだよ。
別次元なんかじゃなく、同じ次元で、お前の、健流の横に居るって決めたんだよ!!一生!!
俺の人生には、健流だけで良い! もう健流しか触らせない!」
(我慢してたのに……)
晴臣は堪えていたのにやっぱり泣いてしまった。
悔しくて、悲しくて、腹が立って
「なのに、なんで……俺の気持ち置いて、お前一人勘違いして先走るんだよ……」
健流のネクタイで、晴臣は涙と鼻水を拭きまくってやった。
「オミ……」
気が付くと晴臣も健流にネクタイを引っ張られていた。
健流が泣くのを見たのは、三度目。
前は晴臣が辛い思いをさせて、泣かせた。
だけど今日は、笑いながら喜びながら、健流は泣いている。
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