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ソファで並んでいつものアイスを食べながら
二人、泣き腫らした目で、タブレットで間取りを見てあーだこーだと言っている。
「樹に電話じゃなくて、いきなり引っ越ししましたのハガキ送って驚かそうか!」
「樹はきっと、呆れはするけど笑うだけで驚かないよ。うちの親姉弟もう多分驚かないだろうけど」
「俺んちも驚かないだろうな」
「でも、実際一緒に住むとなったら……住所とか、色々会社にはバレたら」
「あーそれは大丈夫。臣は気にすると思った。
俺らが引っ越しする頃……多分、その頃は俺が部署異動して自分で社内の手続き処理する事になってるだろ。
なんなら臣は実家から住民票移さないで、通勤経路も口外しなきゃ漏れないだろうし。とりあえず、上司の本間部長と相談して……」
健流は晴臣に殴られた頬に、アイスの容器を当て、ニヤリと笑いながらぶつぶつ呟いている。
晴臣は意味が解らず、首を傾げる。
「家買うったって、多分今すぐは無理だから一旦賃貸かな」
「家賃勿体ない。一日でも早く買いたい。一戸建てが良い!」
「健流、相変わらず無茶苦茶言うなあ」
「俺、夢だったんだ。今の家は飼えないから
大きな犬飼いたかったんだ!臣。良いか?」
「犬?それは全然良いけど……そしたら俺の願いも聞いてくれる?
聞いてくれなきゃ、一緒には住まない」
晴臣のきっぱりとした物言いで、願いを聞かなければ一緒に住まないと宣言され、健流は震えあがった。
「え?なんだよ……俺に、出来る事か?誕生日の天気操んのは、流石に無理だぞ」
「もう、違うよ。お願いなんだけど。
毎日、ピアノ弾いてくれる事。
俺の願いはそれだけだよ」
「え!?あのピアノ、連れて行っていいのか?!」
健流は珍しく子供の様な表情で、喜びを露わにした。
「当たり前だろ。どんなに小さい家でも、一緒に持って行くつもりだよ」
(僕等を会せてくれた、おばさんの形見だもの)
晴臣は、健流の肩に頭を預ける。
――目を閉じれば諳んじる、あの旋律。
「だから、お願いだから
ずっと、俺の隣で、あの曲を……健流のピアノで聴かせて」
健流はもたげて来た晴臣の髪にキスし、同じく目を閉じる。
「あぁ、勿論。臣が望んでくれるなら。
俺の命ある限り弾いて、臣に捧げ続けると誓う。
……愛の、夢」
-完-
最後まで読んで下さった方、有難うございました!
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