たそがれのいろ

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 茜色が藍と混ざって薄紫に滲む。魔法にかかったような愛おしいひとときが、群青に染め上げられて黒く沈んでゆく。泣きたくなったけれど、そうしてはいけない気がした。きっと瑞希にはその資格が無い。 「瑞希は勝手だよね」  後ろから声を掛けられて弾かれたように振り返った。バランスを崩して柵から落ちそうになったけれど、そんなことはどうでもいい。早鐘みたいに心臓が跳ねるのは落ちかけた所為じゃない。 「今更『会いたい』なんて、相当たちが悪いよ」  加奈の表情は険しい。きちんと化粧をした顔は瑞希の記憶にあるよりもずっと綺麗で。今でもモテてるんだろうなあと思った。 「ごめんなさい」  たちが悪いのも身勝手なのも自覚している。それでも会いたかった。 「謝るくらいなら呼び出さないで。あたしは、瑞希がどういうつもりなのか聞きにきたの」  加奈は腕組みをして立っている。柵よりも随分内側で、向き直って柵の側に立った瑞希からは手を伸ばしても届きそうにない。 「卒業からだと八か月だよ。連絡を取らなくなってからでも三か月以上経つ。あたしが嫌われてからだともう一年近くかな」  投げやりな笑い方は加奈には似合わない。そんな顔をさせたのは瑞希だ。いつも笑っていた加奈を泣かせたのも。 「だって加奈がいいの」  瑞希の声は小さい。静かな丘の上でも少し離れれば聞き取れないくらいに。 「加奈じゃなきゃ嫌だって思ったの。だから……」  ぼそぼそと瑞希は言葉を落とした。聞かれるのは怖い。話すのも怖い。だけど、何も言わなくても抱きしめてもらえるなんて思っちゃいけない。目の前に差し出されたものが何となく素敵に見えて手に取ってみたあのときとは違う。瑞希は、欲しくてたまらないものに手を伸ばそうとしているのだから。
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