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「かんぱーい!」
断り続けていた合コンに駆り出されたのは先月の半ばのことだ。どうしても女の子が足りないと拝まれて、瑞希は渋々出席した。端っこで黙って食事をして帰ればいい。そう思った。人数合わせのバイトみたいなものだから会費はいらない、と言われたのも大きい。一食浮く。ラッキー。くらいの気持ちだった。
そんなだから男の子たちの顔なんて見ていなかったし、上る話題にも適当に相槌を打つだけで、結構浮いていただろうな、と思う。でもご飯は美味しかった。瑞希はそこそこ満足して、烏龍茶を飲みながらお開きになるのを大人しく待っていた。
「瑞希、川野くんとおんなじ方向だよね。送ってってもらいなよ」
店の前での別れ際、瑞季を拝み倒して連れてきた里紗が言った。
「えーいいよ。お構いなく」
ていうか、迷惑です。そもそもどの子が川野くんかも分からない。
そんな失礼なことを思いつつ、瑞希は手を振ってみんなと別れた。はずだった。
「瑞希ちゃんの家はどの辺なの?」
隣を歩く自称川野くんが馴々しく話し掛けてくる。
「答える必要性が見受けられません」
「えー。連れないなあ。あーじゃあじゃあ、彼氏はいるの?」
塩対応にめげる様子もなく、川野くんは笑って次の質問を投げてきた。
「川野さんに関係ありません」
瑞希の眉間に皺が寄る。
どこかに行ってくれないかなと思うのだけれど、たまたま帰る方向が一緒だからたまたま並んで歩いているのだと言われると返す言葉が無い。一度コンビニに入ってやり過ごそうとしたのだけれど、ついて来られた。それもたまたま買い物があったのだと言われると、もしかして自分が自意識過剰すぎるのかと不安になる。
「関係あります」
きっぱりと言い返されて瑞希は足を止めた。
「は?」
「瑞希ちゃんがどう思ってるのかは分からないけど、今日の俺の一番の関心事はそれなので。大いに関係があります」
「はあっ?」
いつの間にか繁華街は抜けていて、人通りの途絶えた住宅街の街灯がぼんやりと足元を照らしていた。
川野くんは取り立てて強引なことをした訳ではない。
「もしいないんだったら、考えてもらえないかな。お友達からでもいいんで」
川野くんが一歩近づいた。瑞希は呆気にとられていて。気がついたときには唇を塞がれていた。
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