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「あたしは何を聞かされてるんだろう」
加奈が笑う。
「そりゃあもう随分経つんだし、瑞希が誰と付き合おうがあたしには関係無い。そもそも、あたしたち付き合ってたわけじゃないものね?」
その声が冷たくて瑞希は怯んだ。
「あたしが勝手に纏わりついてただけ。瑞希は優しいから拒まなかっただけ。黄昏の空の色に惑わされてただけ。だからもう忘れてしまいなさいよ」
瑞希の知っている加奈は、こんな風に卑屈な話し方はしない。いつもストレートで、いつも眩しかった。まるで太陽みたいに、直視するのが怖かった。
「瑞希に新しい人が出来たんなら、あたしにもいて不思議はないでしょ?」
加奈の言葉に、俯いてぼそぼそと喋っていた瑞希は弾かれたように顔を上げた。
「男の子と付き合った方がいいんだよ。分かるでしょ?」
「加奈は、男の子と付き合ってるの?」
私以外の誰かと付き合ってるの?
瑞希の声が震える。加奈は違うって言ってくれるはずだ。そんな訳ないでしょって、抱きしめてくれるはずだ。そんな願望は、頑なな加奈の表情の前に脆く崩れ去る。
「瑞希には関係ないよ」
いつの間にか茜の色彩は消え去って、空には星が瞬いていた。
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