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夏のある日、キリギリスが草のハンモックで 寝そべっていると、アリたちがぞろぞろ歩いてきました。
「よう 坊主! 汗びっしょりで 頑張ってるねぇ、何してんだい?」
キリギリスは近くを通った小さなアリに声をかけました。小さなアリは今日が初めてのお仕事の日です。
「あ……こんにちは……。えっと…… 僕たちは巣穴に食べ物を運んでいるんです」
「ふーん……。でも、ここには食べ物がいっぱいあるじゃねぇか。どうして、いちいち巣穴に食べ物を運ぶんだ? 俺みたいに、お腹が 空いたらその辺にある食べ物を食べて、あとは自分の時間を楽しく過ごしたほうがいいんじゃねぇか?」
「え?……だけど……お父さん 達から言われてるし……今は夏だから食べ物がたくさんあるけど、冬が来たらここも食べ物はなくなってしまうって……。だから今のうちにたくさんの食べ物を集めておかないと、冬を 越せなくなるって……。今苦労をしておけば後から助かるんだって……」
小さなアリは 動揺して、オドオドと答えました。キリギリスはその 返答を 鼻で笑うと、楽しそうに言いました。
「まだ夏は始まったばかりだぜ? 冬の事は冬が来てから考えればいいのさ! もしかしたら、冬だって来ないかも知れないだろ?」
「え?……そんな事を言われても……」
「おい! アントン!」
列から離れてキリギリスと立ち話をしているアントンに向かい、1匹のアリが 怒鳴りつけました。
「あっ! お父さん!」
「早く列に戻れ!……アンタもウチの子に話しかけないでくれ。仕事の 邪魔なんでね」
アントンは急いで列に戻ろうとしました。
「お前ぇ、アントンっていう名かい?」
キリギリスが葉っぱの上から声を 掛けました。アントンは 背後からの声に足を止めると振り返ります。
「俺はギリィ! キリギリスのギリィってんだ。よろしくな!」
「アントン!」
列の先を行く父アリが、再び大声で名前を呼びます。アントンはギリィにあいさつもせずに 駆け出して行きました。
ああビックリした! 変な人だなぁ……
列に戻りながらアントンは「巣穴の 外には変な大人もいるんだなぁ」と新たな発見に 驚きました。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
巣に戻ってからも、アントン達の仕事は何時間も続きます。集めて来た食べ物を 種類別に倉庫へ運んだり、女王様のところへ運んだり、調理係のところへ運んだり……。 狭い通路を押し合いへし合い、あっちにぶつかりこっちにぶつかりしながら働きます。
巣の中のお仕事は24 時間体制で続きます。アリ達はいくつかのグループに分かれ一日中交代で仕事を続けているのです。
「よし! 交代だぞぉ」
アントン達のグループの仕事も、ようやく交代時間になりました。それぞれが自分の部屋へと帰って行きます。
「ようアントン! どうだった?」
疲れた足を引きずるように歩いていたアントンは、 途中で父アリと一緒になりました。
「あ……すごく 疲れたよ……。お父さん達って毎日こんなに 働いてたんだね……」
「そうか、疲れたか? まあこれから毎日しっかり働けば、その内に 慣れるさ!」
「これから……毎日……。うん! 僕、 頑張る!」
2人が部屋に入ると、 丁度ご 飯の準備を終えた母アリが 迎え入れてくれました。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
「……そう言えば今日、僕、変な人に会ったよ」
食事を終えるとアントンが母アリに 報告します。
「変な人?」
母アリが 尋ね返しましたが、すぐに父アリが 面白くも無いという声で言いました。
「あのキリギリスだよ! まったく……いつもいつもダラダラ 過ごしてる 大馬鹿野郎さ!」
「ギリィさんって言うんだって」
アントンが 何気なく口を挟んだ 途端、父アリはテーブルを「ドン!」と 叩きました。
「アントン! 良いか? アイツの名前なんかもう口にするな! 外でアイツに会っても話なんかしちゃダメだぞ! 近づくんじゃない! アレはダメ虫なんだからな!」
「……ダメ虫?」
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