第一話 アリとキリギリス

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 夏のある日、キリギリスが草のハンモックで ()そべっていると、アリたちがぞろぞろ歩いてきました。 「よう 坊主(ぼうず)!  (あせ)びっしょりで 頑張(がんば)ってるねぇ、何してんだい?」  キリギリスは近くを通った小さなアリに声をかけました。小さなアリは今日が初めてのお仕事の日です。 「あ……こんにちは……。えっと…… (ぼく)たちは巣穴(すあな)に食べ物を運んでいるんです」 「ふーん……。でも、ここには食べ物がいっぱいあるじゃねぇか。どうして、いちいち巣穴に食べ物を運ぶんだ?  (おれ)みたいに、お(なか)()いたらその(へん)にある食べ物を食べて、あとは自分の時間を楽しく過ごしたほうがいいんじゃねぇか?」 「え?……だけど……お父さん (たち)から言われてるし……今は夏だから食べ物がたくさんあるけど、冬が来たらここも食べ物はなくなってしまうって……。だから今のうちにたくさんの食べ物を集めておかないと、冬を ()せなくなるって……。今苦労をしておけば後から助かるんだって……」  小さなアリは 動揺(どうよう)して、オドオドと答えました。キリギリスはその 返答(へんとう)(はな)(わら)うと、楽しそうに言いました。 「まだ夏は始まったばかりだぜ? 冬の事は冬が来てから考えればいいのさ! もしかしたら、冬だって来ないかも知れないだろ?」 「え?……そんな事を言われても……」 「おい! アントン!」  列から離れてキリギリスと立ち話をしているアントンに向かい、1匹のアリが 怒鳴(どな)りつけました。 「あっ! お父さん!」 「早く列に戻れ!……アンタもウチの子に話しかけないでくれ。仕事の 邪魔(じゃま)なんでね」  アントンは急いで列に戻ろうとしました。 「お前ぇ、アントンっていう名かい?」  キリギリスが葉っぱの上から声を ()けました。アントンは 背後(はいご)からの声に足を止めると()り返ります。 「俺はギリィ! キリギリスのギリィってんだ。よろしくな!」 「アントン!」  列の先を行く父アリが、再び大声で名前を呼びます。アントンはギリィにあいさつもせずに ()け出して行きました。  ああビックリした! 変な人だなぁ……  列に戻りながらアントンは「巣穴の (そと)には変な大人もいるんだなぁ」と新たな発見に (おどろ)きました。 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~  巣に戻ってからも、アントン達の仕事は何時間も続きます。集めて来た食べ物を 種類別(しゅるいべつ)倉庫(そうこ)へ運んだり、女王様のところへ運んだり、調理係のところへ運んだり……。 (せま)い通路を押し合いへし合い、あっちにぶつかりこっちにぶつかりしながら働きます。  巣の中のお仕事は24 時間体制(じかんたいせい)で続きます。アリ達はいくつかのグループに分かれ一日中交代で仕事を続けているのです。 「よし! 交代だぞぉ」  アントン達のグループの仕事も、ようやく交代時間になりました。それぞれが自分の部屋へと帰って行きます。 「ようアントン! どうだった?」  疲れた足を引きずるように歩いていたアントンは、 途中(とちゅう)で父アリと一緒(いっしょ)になりました。 「あ……すごく (つか)れたよ……。お父さん達って毎日こんなに (はたら)いてたんだね……」 「そうか、疲れたか? まあこれから毎日しっかり働けば、その内に ()れるさ!」 「これから……毎日……。うん! 僕、 頑張(がんば)る!」  2人が部屋に入ると、 丁度(ちょうど)(はん)の準備を終えた母アリが (むか)え入れてくれました。 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ 「……そう言えば今日、僕、変な人に会ったよ」  食事を終えるとアントンが母アリに 報告(ほうこく)します。 「変な人?」  母アリが (たず)ね返しましたが、すぐに父アリが 面白(おもしろ)くも無いという声で言いました。 「あのキリギリスだよ! まったく……いつもいつもダラダラ ()ごしてる 大馬鹿野郎(おおばかやろう)さ!」 「ギリィさんって言うんだって」  アントンが 何気(なにげ)なく口を(はさ)んだ 途端(とたん)、父アリはテーブルを「ドン!」と (たた)きました。 「アントン! 良いか? アイツの名前なんかもう口にするな! 外でアイツに会っても話なんかしちゃダメだぞ! 近づくんじゃない! アレはダメ虫なんだからな!」 「……ダメ虫?」
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