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アントン達は洪水の激流に流されましたが、葉っぱのボートは沈むことなく、無事に水が引いた草地に 辿り着きました。
「いやぁ……今回はまた 随分と流されちまったなぁ……」
ギリィは辺りの様子を確認しながら笑います。
「……坊やはこれからどうする?」
リンから 尋ねられ、アントンは返答に困りました。
どうするって聞かれても……
「僕の巣穴……どこに在るんですか?」
「んあ? 元の場所にあんじゃねぇか? アリの巣なんだからよぉ」
ギリィは手ごろな草を引き抜くと、口に 頬張りムシャムシャと噛み始めます。
「もう! ちゃんと答えて上げなさいよ!」
リンはギリィの後頭部をコツンと叩きました。
「あっちから流れて来たから……水が全部引いたら、水の 跡を辿って行けば帰りつけるわよ」
上流を指さしながらリンは優しく 微笑み、アントンに帰り道を教えてくれました。でも、アントンはとても不安気に上流を見つめます。
「リンさん達は……どうするんですか? あの草地には帰らないんですか?」
「帰るさぁ!……秋までにはな」
そう言ってギリィは、手に残っていた草の 欠片を口に入れました。
「あたし達は別に急ぎの用もないからねぇ……気ままにのんびり、演奏旅行でもしながら夏の間には帰るわよ」
リンも柔らかそうな薄緑色の草を見つけ、美味しそうに食べています。アントンは何だか自分もお腹が空き始めて来ました。
グゥ……キュキュ……
お腹が空いたなと思った 途端にお腹が鳴り、アントンは思わずお腹を押さえます。
「お? 何とも切なそうな腹の音色が聞こえて来たなぁ?」
ギリィはそう言って笑うと辺りを見回し、適当な草へピョンと跳び上って行きました。
「さあて……上手く見つかるかしらねぇ……」
アントンの 傍にリンは寄ると、ギリィの姿が消えた草を見上げます。
「え? ギリィさん……何か探し物ですか?」
アントンも同じように顔を上げました。しばらく見上げていると……
「うわぁっ! とと……」
突然、空からギリィが降って来ました。
「わっ!」
アントンは急いで 跳び退きます。ギリィは着地を失敗して打ったお尻を 摩りながら、アントンに語りかけました。
「 坊主ついて来な! お 前ぇが好きそうな食いモン見つけたぜぇ!」
ギリィはそう言うと草の森に入って行きます。
「あら? わりと簡単に見つかったわねぇ……雨上がりなのに。坊や、ついて行くと良いわ。さあ……」
リンもギリィの後に従いました。
「え? あの……でも僕……」
アントンは帰り道になるはずの川の上流をチラッと見ましたが、草の森に消えていく2人の背中も気になります。
グゥ……
再びお腹が鳴りました。アントンは意を決すると、急いで2人の後を追いかけます。
「たぁしか、こっちの 方に見えたんだけど……」
先頭を行くギリィは進路を確かめるようにブツブツ呟きながら進みます。しばらく進んで行くと、アントンはギリィの行き先が分かってきました。
「あ……この甘い香り……」
「お? さすがアリん子だねぇ、 匂いで分かったかい?」
得意気なギリィの声を聞きながら、アントンは甘い香りに向かって一直線に 駆け出しました。
やっぱりそうだ!
草の森が開けた場所に、花の 茎が並んで立っています。茎にはビッシリ、アブラムシの集団が雨宿りをしていました。
「お前ぇらの食いモンはあれだろ? でも 交渉は自分でしなよ」
ギリィは楽しそうに言うと、近くの草をもぎ取り自分の口へ運びます。アブラムシの 甘露を分けてもらうため、アントンはオズオズと進み出しました。
「あ……あのぉ……」
茎の下のほうにいるアブラムシに、アントンはドキドキしながら声をかけます。
「お休みのところすみません……。あの……僕……お腹がペコペコなんです……。良かったら甘露を分けてもらえませんか?」
「んあ? アリん子か……勝手に持ってってくれや」
アブラムシはおしりに付いている透明の球体を、後ろ 脚で触りながら答えました。
「ありがとうございます!」
アントンは元気にお礼を言うと急いで茎に上り、甘露の球をつけているアブラムシ数匹の間を行ったり来たりしながら食事をしました。
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