第二話 演奏家

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「ところでお前……見ない顔だねぇ」  食事を進めるアントンに1匹のアブラムシが声を掛けます。 「あ……僕……上流の……向こうの草っぱらに住んでるんです。さっきの雨で流されて来て……」  アントンが説明を始めると、周囲のアブラムシ達がざわつき始めました。 「おい……まずいんじゃないかい?」 「他所(よそ)モンだってよ」 「おい坊や、食事は終わりだ! 早く行ってしまいなさい!」  アブラムシ達は茎の上に向かい、ザワザワと移動を始めます。アントンはワケが分かりません。 「あの……ありがとうございました!  御馳走様(ごちそうさま)でした!」  それでもアブラムシ達にお礼の言葉をかけ、茎から下り始めます。 「何だよ? もう食ったのか?」 「お腹いっぱいになった?」  茎の下で待っていたギリィとリンが尋ねました。 「あ……はい……ありがとうございました! おかげさまでお腹も一杯に……」 「なあにが腹一杯だってぇ?」  アントンが地面に降り立った 途端(とたん)、誰かが声を掛けて来ました。ギリィとリンはハッと周りを見回します。黒い大きなアリ達が、いつの間にか3人を取り囲んでいました。 「なんだぁ? テメェらは……」  ギリィは黒アリ達に問いかけます。 「テメェらこそなんだぁ? 見ねぇ面だなぁ……おい坊主!」  頭の大きな黒アリが、ズイッと前に出てアントンに尋ねました。リンはアントンの (そば)に寄り、ギリィは黒アリとアントン達の間に立ちます。 「 (なま)けもんのキリギリスに弱っちい鈴虫が……なぁんでアリの小僧なんかとつるんでやがんだよ!」  ギリィは (ひたい)に汗を浮かべながらも、余裕を (よそお)って笑みを浮かべました。 「誰が誰とつるもうが勝手でしょうがね……お宅の許可は要らんでしょ?」 「何だとぉ!」  黒アリの集団から 罵声(ばせい)が飛びます。それでもギリィは負けていません。 「俺達ぁワケあって一緒に旅をしてるんだよ……おとなしく道を開けてくれねぇかなぁ?」  頭の大きな黒アリはしばらくギリィを (にら)みつけていましたが、フッと笑みを浮かべて言いました。 「そういう事かい……なるほどねぇ……。アリん子の子守りってワケだ! 良いぜ……お前ら、道を開けてやりな!」  黒アリ達は指示を受けると「サッ!」と分かれて道を開きます。ギリィは 警戒(けいかい)(うたが)いの目を頭の大きな黒アリに向けたまま、ゆっくり動き出しました。 「……道が開いたぜ……。行こうか……」  アントンとリンも、ギリィの後について恐る恐る前進します。左右に分かれた黒アリ達はニヤニヤと3人を見ていました。 「ちょっと待ちな!」  黒アリ達が ()け開いた道の真ん中にさしかかった時、大頭の黒アリが不意に3人を呼び止めます。 「……おいおい……いまさら通行料を払えなんて、 欠伸(あくび)の出るような話すんじゃねぇだろうなぁ……」  ギリィはウンザリした声で答え、振り返りました。 「んなこたぁ言わねぇよ。……ただ確認だ。そのアリん子はテメェらの連れ……なんだよなぁ?」 「そう言っただろ……」  良からぬ雰囲気を感じつつ、ギリィは答えます。 「じゃあよ……そいつが俺らのシマで勝手に食っちまった甘露の代金……払ってってもらおうか?」  大頭の黒アリが合図をすると、アリ達は道を(ふさ)いで3人を取り囲みました。 「……ギリィ……どうするの?」  リンがアントンを引き寄せながらギリィに尋ねます。 「何にもしてねぇ奴なら通してやるけどよ……俺達の食料を勝手に食って知らんぷりってのは、 道理(どうり)が通らねぇだろ? 俺たちは何か間違ったこと言ってるか? 言ってねぇよなぁ!」  大頭の黒アリが(すご)みました。ギリィは黒アリ達の動きを警戒します。  とにかく……数が……多過ぎるよなぁ…… 「悪ぃけどよ……。払えるモンなんかもってねぇんだわ……(つか)まれ!」  ギリィはリンとアントンに呼びかけ、2人が中足に掴まったのを確認すると一気に跳び上がりました。 「野郎!」
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