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「ところでお前……見ない顔だねぇ」
食事を進めるアントンに1匹のアブラムシが声を掛けます。
「あ……僕……上流の……向こうの草っぱらに住んでるんです。さっきの雨で流されて来て……」
アントンが説明を始めると、周囲のアブラムシ達がざわつき始めました。
「おい……まずいんじゃないかい?」
「他所モンだってよ」
「おい坊や、食事は終わりだ! 早く行ってしまいなさい!」
アブラムシ達は茎の上に向かい、ザワザワと移動を始めます。アントンはワケが分かりません。
「あの……ありがとうございました! 御馳走様でした!」
それでもアブラムシ達にお礼の言葉をかけ、茎から下り始めます。
「何だよ? もう食ったのか?」
「お腹いっぱいになった?」
茎の下で待っていたギリィとリンが尋ねました。
「あ……はい……ありがとうございました! おかげさまでお腹も一杯に……」
「なあにが腹一杯だってぇ?」
アントンが地面に降り立った 途端、誰かが声を掛けて来ました。ギリィとリンはハッと周りを見回します。黒い大きなアリ達が、いつの間にか3人を取り囲んでいました。
「なんだぁ? テメェらは……」
ギリィは黒アリ達に問いかけます。
「テメェらこそなんだぁ? 見ねぇ面だなぁ……おい坊主!」
頭の大きな黒アリが、ズイッと前に出てアントンに尋ねました。リンはアントンの 傍に寄り、ギリィは黒アリとアントン達の間に立ちます。
「 怠けもんのキリギリスに弱っちい鈴虫が……なぁんでアリの小僧なんかとつるんでやがんだよ!」
ギリィは 額に汗を浮かべながらも、余裕を 装って笑みを浮かべました。
「誰が誰とつるもうが勝手でしょうがね……お宅の許可は要らんでしょ?」
「何だとぉ!」
黒アリの集団から 罵声が飛びます。それでもギリィは負けていません。
「俺達ぁワケあって一緒に旅をしてるんだよ……おとなしく道を開けてくれねぇかなぁ?」
頭の大きな黒アリはしばらくギリィを 睨みつけていましたが、フッと笑みを浮かべて言いました。
「そういう事かい……なるほどねぇ……。アリん子の子守りってワケだ! 良いぜ……お前ら、道を開けてやりな!」
黒アリ達は指示を受けると「サッ!」と分かれて道を開きます。ギリィは 警戒と疑いの目を頭の大きな黒アリに向けたまま、ゆっくり動き出しました。
「……道が開いたぜ……。行こうか……」
アントンとリンも、ギリィの後について恐る恐る前進します。左右に分かれた黒アリ達はニヤニヤと3人を見ていました。
「ちょっと待ちな!」
黒アリ達が 避け開いた道の真ん中にさしかかった時、大頭の黒アリが不意に3人を呼び止めます。
「……おいおい……いまさら通行料を払えなんて、 欠伸の出るような話すんじゃねぇだろうなぁ……」
ギリィはウンザリした声で答え、振り返りました。
「んなこたぁ言わねぇよ。……ただ確認だ。そのアリん子はテメェらの連れ……なんだよなぁ?」
「そう言っただろ……」
良からぬ雰囲気を感じつつ、ギリィは答えます。
「じゃあよ……そいつが俺らのシマで勝手に食っちまった甘露の代金……払ってってもらおうか?」
大頭の黒アリが合図をすると、アリ達は道を塞いで3人を取り囲みました。
「……ギリィ……どうするの?」
リンがアントンを引き寄せながらギリィに尋ねます。
「何にもしてねぇ奴なら通してやるけどよ……俺達の食料を勝手に食って知らんぷりってのは、 道理が通らねぇだろ? 俺たちは何か間違ったこと言ってるか? 言ってねぇよなぁ!」
大頭の黒アリが凄みました。ギリィは黒アリ達の動きを警戒します。
とにかく……数が……多過ぎるよなぁ……
「悪ぃけどよ……。払えるモンなんかもってねぇんだわ……掴まれ!」
ギリィはリンとアントンに呼びかけ、2人が中足に掴まったのを確認すると一気に跳び上がりました。
「野郎!」
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