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二.
「あぁ、未莉亜、いたのかい?」
「『いたのかい?』じゃないわよ、あんたが連れて来たんでしょうが!」
「そうか、そうだったっけな。
すまない、頭の中の声が五月蝿すぎて、現実の方で自分や人が何を言ったのか何を言われたのか、全く記憶に残らないことが多くてね。
人との会話ってのはけっこう難しいんだなぁと思って日々を暮らしてるよ」
「あっそ、はいはい、大学始まって以来の超天才は言うことが一般人とは違いますわね。
でも天才だからって何もかもそれでチャラになるとか思わないでよね?
最低限の礼儀礼節はわきまえてもらいたいわ」
「うん、それは母からもずっと言われてきているからな。
だらか確か、帰りにロイヤル・エンパイア・スカイ・リゾート展望レストランの極秘VIPディナーを食わせてやると言ったと思うが」
「まったくね、そんなとこのディナーを当たり前に奢れるなんて、随分とご裕福なお育ちのようで何よりよね。
こっちはできればオトコと行きたかったわ。
今ちょうどそういうのいないから仕方無いけど。
あーあ、だからって餌に釣られてあんたと二人で厄払いとは、私も落ちたものよ」
ミニスカートにハイヒールといった出で立ちで、器用に石段を上りながら自嘲気味に首を振る未莉亜に、
「ところでちょっと息が苦しくなってきたんだが、背中におぶさっても構わないかな。
何しろ運動らしい運動なんてほとんどしたことが無いんだよ」
と遊佐木が背後から手を伸ばしてきた。
「なっ……ちょ……やめなさいよ!?
落ちるっての!!
殺す気!?」
「えぇ?
いや、だってお前は暇さえあれば手当たり次第に男と遊び呆ける、体力自慢の異常性欲者じゃないか。
このぐらい余裕じゃないのか?」
「人聞きの悪いこと言ってんじゃないわよ!
手当り次第ってことは無いわよ!
ちゃんと選んでんだから!」
「その割にこないだは酷い目に遭ったとか言ってたじゃないか。
だからこそ、こうして厄払いなどに来ることもやぶさかでは無かったのだろう?」
危うく階段を踏み外しそうになりながらも、背後から伸ばされた遊佐木の腕をとらえ、それでもなおしがみついてこようとする遊佐木をなんとかねじ伏せた未莉亜だったが、その言葉に手を離してうつむき、ため息をついた。
「まぁ……あたしだって別に神頼みなんて信じちゃいないけど……。
さすがに親戚衆から日常的に厄年厄年とか言われてると、あの男との件には自分自身に何一つとして否が無いわけなんだから、もう考えられるのは厄とかそういうことぐらいしか無いかなぁって……。
っていうかほら、ちゃんと立ちなさいよ。
手ぐらい引いてあげるから」
「ありがとう。
未莉亜はとんでもない自信家の男好きだけどいいやつだよな」
「褒めてんのけなしてんの?
……はぁ……やっと着いた……」
「ふむ、全部で二百十六段か。百八段が二ターン、煩悩まみれのお前のためにあるような階段だったな」
「やかましい」
立ち止まって息を整える二人の前には、何百年という歴史を感じさせる、古めかしくも荘厳な作りの大きな社が凛と佇んでいた。
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