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六.
「どういうつもりで儀式の最中に突然絡んできたのか知らんが……ではお前は、明日の自分をより良くしようと願い、欲望を叶えるために努力をすることは、汚いとでも言うのか?
他人のために自分を抑え付けて自己犠牲のもとに死んでいったりしたら、最高にきれいな心だとでも言いたいのか?
お前は人類の世界の進歩を根こそぎ否定するのか?
自殺を推奨でもしているのか?
欲望のために生きて何が悪い。
自分の幸せのために生きて何が汚い?
だいたい自分を犠牲にしてまで世話を焼かれても、こっちは気持ち悪いし疲れるし迷惑なだけだ。
私の心がきれいなどとわけのわからん言い掛かりを付けるのはやめてくれるか。
私は欲望のままに自分の知的好奇心を満たすためだけに生きている。
人助けになるようなことはその上での副次的な余力に過ぎんし、それで充分だろう。
そしてそれに対してきれいだの汚いだのという非論理的で主観的な概念を持ち出し、人の心の価値を秤にかけようなどという思想は、なんだろうな、上から目線で小馬鹿にされているようで不愉快だな。
何様なんだ?お前は。
いいから邪魔だからさっさと帰れ。
こっちだって金を払ってここにいるんだからな」
遊佐木の言葉に一瞬、呆気に取られていたような様子のそいつだったが、
「ほほぅ……この私に、なかなかの言いようだな……女……。
なるほどなるほど、気に入ったぞ」
と遊佐木に顔を近付けてくる。
「別にお前に気に入られるために話しているわけではない。
なんかほんとずっと偉そうだな、お前は。
お前に気に入られることが誰しものステータスだ、みたいな言い方をしてるんじゃないぞ。
そもそもお前が何者なのかもわからん状態で、そんな得体の知れんお前に好かれるなど、ある意味、見ず知らずのストーカーに目をつけられるのと変わらんだろうが。
……あぁ、いや、しかし……」
「んん?なんだ?」
「どうもお前の姿は私にしか見えていないようだし、この会話も全く誰も気にしていないのが不思議でな。
これは物理学的にはどういう状況なのかと思うと、確かに私の方もお前が気にはなってきているな……。
と、なれば……私のやるべきことは決まっている」
「ほぅ……どうするつもりなのかね?」
懐から皮のケースを取り出し開き始めた遊佐木に、そいつが興味深げに尋ねると、遊佐木はケースの中から銀色に光るメスを取り出し、真剣ながらも恍惚とした悦びに満ちた表情でそいつをまじまじと見詰めた。
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