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七.
「あぁ。
私は私の知的好奇心を満たすために、まずはお前を姿焼きにしてその味や食感や臭みを確かめ、論文を作成して皆に発表しなければならんのだ。
科学者の使命は、己が明らかにした森羅万象を人類全体の財産として共有させんと尽力することだからな。
しかし……私はまぁまぁ好き嫌いも多いし、もしかしたらお前みたいなゲテモノを口にしたら、何らかのアレルギー反応や、単純に不味過ぎて壮絶な嘔吐に襲われるかも知れん。
だがそれでも私は探求の手を緩めるわけにはいかないんだ。
止められないんだよ、この衝動を。
正直言えばお前なんか全然食いたくないし、とてもじゃないが食えそうな物体にも見えん。
だが!
それでもだ!
私は食わずにはいられないんだよ!
私の知的好奇心、探求心は誰にも、私自身にも抑え付けることなどできんのだ!
さぁ、そこに直れ、このゲテモノが!
そもそもお前自身の心はきれいなのか!?
存分に味わって確かめてくれるぞ!」
言うやいなや、遊佐木はメスを振りかざした。
と、
「ちょっと……ちょっと!
遊佐木!?
起きなさいよ!
遊佐木!!」
未莉亜の大声と、激しく揺さぶられる振動で、遊佐木は目を覚ました。
「あ……あぁ……あれ……?
そうか……すまない、いつの間にか寝てしまっていたんだな……。
儀式はもう終わってしまったのか?」
「とっくに終わったし、いつの間にかも何も、あんた最初からずっと全部寝てたわよ」
「えぇ!?
……そうか……それは……残念だったな……。
ではさっきのあれも全部夢だったのか。
くそ、あと一歩でファンタジックで小生意気な形而上学的ゲテモノの姿焼きを御試食頂ける所だったのに……」
「はぁ?
今日イチ最大限に意味不明で気持ち悪いこと言ってんじゃないわよ!
ったく、寝ぼけないでよ、一体ここに何しに来たと思ってんの?
三万円も払って昼寝しに来たの?
あんたはほんとやっぱり、世界中で最もこういう場に来るのが間違ってる人間だわ。
厄払いどころか祟られるわよ?」
「あはは、祟られるってのは何だい?
聞いたこと無い概念だが」
喋りながら御神札や御神饌などの一式が収められた紙袋を受け取り、ありがたみも無さげに去って行く二人を、宮司と巫女が神妙な面持ちで見送っていた。
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