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第三話 ある未来の話
店の床の端から端まで、髪の毛の一本も見逃さないように箒で掃いてまわる。集めた大量の髪の毛を業務用の黒いビニール袋に入れて、他にまとめてあったゴミ袋と一緒に店の表の道路に出す。
「颯人君、先上がるねー。モップ掛けだけあと宜しくー」
「はい。お疲れ様です」
トップスタイリストの和美さんがこれから彼氏と会うのか化粧を直し金髪をアップにして足早に去っていった。
楽しげな後ろ姿を見送り、店に戻ろうとしたところで、後ろポケットに入れていたスマホが振動する。取り出しメッセージを開くと、宮藤から「今日のご飯はハンバーグです」と写真と一緒に送られてきていた。
あの後、宮藤の夢は声優になることだと聞いた。宮藤は一緒に上京しようと言ってくれて、あまり上京に良い顔をしなかった両親も友人とルームシェアするという話をすると快諾してくれた。
今はどちらの学校にも通いやすい駅を選んで、2DKのアパートで一緒に暮らしている。ちなみに宮藤はあれから急激に背が伸びて痩せてしまい、あの愛らしい丸い背中は失われた。
が、女子からの人気は絶大で、専門学校に入学早々告白されたという話を聞いたくらいだ。
スマホを仕舞い、階段を上って店のドアを開く。と、ちょうどレジ締めの作業をしている南さんと目が合って、気づかないでいいことに気づいてしまい、慌ててスタッフルームにあるモップを取りに走った。
水に浸したモップを搾り、床を磨いていく。床についた薬剤の汚れを擦り落として、一通り終わったことを確認し顔を上げると、目の前に彼が立っていた。思わず目を逸らしてしまう。
「今二人きりだな」
「えっ、あ、あの……」
「って思った顔してたな、さっき」
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