第二話 ある転生者の話

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「貴重な自由時間を……有り難いなあ。付き添いの子はお友達?」 「まあ、はい」  友達と言うには付き合いの日が浅い。が、最早彼は同志だった。 「いいなあ修学旅行。今日戻ったら髪型変わっててびっくりされるんじゃない?」 「多分、気付かれないかと……クラスで影薄いので」  言葉を返し難いネガテイブな発言をしてしまい、まずいと思ったが、彼もプロだ。「びっくりされるように俺も頑張るよ」と空気を読んで適切な対応を取る。僕は客なのだ、と改めて認識する。 「東京はどこ行ったの?」 「昨日はディズニーランド、今日は午前中彼に付き合って秋葉原に。明日は横浜、鎌倉観光です」  大体聞かれそうなことのシミュレートはできている。台本を読むようにすらすらと言葉が出てきて、今のところ順調だ。 「いいなあ修学旅行。二十年前に戻れたら行ってみたいなあ」  二十年前。僕と彼が出会う前の、世界。僕がもし二十年前に戻れたら、形振り構わず彼に想いを伝えたい。  でもタイムスリップはできない。その代わりに僕は、生まれ変われた。そう、彼に、想いを伝えたいから。  鏡に映る南乙次の姿を見詰める。鋏を握る筋張った手、髪を触る指先、真剣な眼差し。  十六年前、夕暮れ時の校舎で、一人マネキンの髪を切っていた。僕が愛したその姿は、変わらないまま。僕も、変わらないまま、ただそれを見ている。  と、彼が鋏をシザーケースに仕舞い、ドライヤーを手に取る。僕がぼんやりしているうちにもう、仕上げだ。
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