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ドライヤーの音で会話もままならない。どうにかして想いを伝えないと、と焦る余り、言葉が喉を通るうちにこんがらかって出口で詰まって出てこない。
ブローが終わり、軽く仕上げのワックスを付ける。ミラーを取り出し後ろのカットを鏡に映した。
「どうかな? 後ろは、こんな感じ」
「い、良い感じです。ありがとうございます」
心臓の音が聞こえてしまうのではないかと思うほど高まる。クロスを外され、レジに誘導されて、もうお別れなのだという事実を突きつけられた。頭が真っ白になる。泣きそうだ。
僕は、僕の人生は、無駄だったのだ。たった一言、「好き」とさえ言えないで終わる。何もしないで、こうやって諦める。神様、ごめんなさい。僕の人生は、また無駄だった。
「高崎くん、これでいいの? 何も言わなくて、それで……君は」
財布からお金を取り出す僕に、宮藤が近付く。「いいんだ」と諦めたように頷いて、店を出た。
「またのご来店お待ちしています」
心臓を握られたかのような痛みがした。振り返ると、笑顔で一礼する彼の姿がそこにあって。
もう、この笑顔が見れなくなるのが必然だというなら、いっそのこと全てを言って終わりにしよう。始まりもしていないこの恋に、結末を与えてやろう。
「……生まれ変わりって、信じますか」
「え……」
彼の笑顔が強張るのを見て、怖気付く軟弱な心を叱咤した。
「生前、貴方を好きだった人間の生まれ変わりなんです。死んで、数日幽霊になって貴方の家に居た。そして成仏して、生まれ変わって、十六年経ったけど……変わらずに貴方が……好きです」
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