第二話 ある転生者の話

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「女じゃねえと恋もできねえのか? そうじゃねえだろ。勝手に諦めやがって」 「だって……君は、『そう』じゃない……」 「だったら、俺を落とすくらいの色香でも磨いて来いよ。化けて出るだけじゃ飽き足らず、生まれ変わって俺の前に現れるくらいなんだろ」  女じゃ無いから、と始まる前から終わっている恋。始めなかったのも、終わらせたのも、僕自身。彼の答えをただ怖がって、一歩を踏み出すことさえしなかった。恋をする権利がないのだと諦めたフリをして。 「……南さん」  涙を拭い、震える手を差し出す。烏のように鈍く太陽を照り返す黒髪と透き通るような白い肌のコントラスト。冷たく見える一重の切れ長な瞳は今、僕を映している。 「僕と……恋をしてください」  縋るように彼の顔を見詰める。と、ふっと彼は吹き出して、僕の手を握った。その手が予想外に温かくて、胸を締め付けていた痛みが薄らいでいく。 「いいけど、俺がお前を好きになるかどうかは分かんねえぞ?」  温かい涙が溢れ出して、優しい微笑みを浮かべる彼が歪んで見える。 「はい……!」  嗚咽が漏れないように、ただそれだけ答えて学生服の袖で唇を塞いだ。  ようやく、僕の恋は、スタート地点から走り出した。ゴールで待っているハッピーエンドを目指して。  唐突に南さんが繋いでいた手を離すと、 「スマホ貸して」  と手を出し、僕がポケットから取り出したスマホを半分奪い取るようにして何やら操作する。 「ああ、お前の名前……高崎何だっけ?」 「……高崎、颯人……」
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