第二話 ある転生者の話

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 呆気に取られている僕にスマホを返すと、今度は自分のスマホを取り出し、素早く指を動かす。そして、画面を僕の眼前に突き付けた。「ハヤト」という名前と僕の電話番号が表示されている。 「SNSも電話帳から繋げとくから、後で登録しとけよ」  驚いて自分のスマホの電話帳を確認すると「南乙次」という名前が増えていた。あまりの早業に目が点になる。 「じゃ、仕事戻るから」  片手を上げて来た道を戻っていく彼を呆然と見送る。近くで見ていたのだろう宮藤が、満面の笑みで僕の方に駆け寄ってくる。 「高崎くん、やった!」  感極まったのか僕に抱きついてきて、ついそのはしゃぎっぷりが可笑しくて笑ってしまった。 「まだ……始まったばかりだから」 「うん、でも、すごいよ!」  まるで自分のことのように喜んでくれる宮藤に、心の中で感謝した。僕が居てくれなかったら、きっと前世と同じように諦めてしまっていただろうから。  ふと、周りから視線を向けられていることに気付いたのだろう、宮藤が顔を赤らめて慌てて離れた。店の方を見るとちょうど彼の姿が、ドアの向こうに消えて行くところだった。 「……じゃあ次行くとこ決めてなかったけど、集合まで宮藤の好きなとこ行こう」 「えっ、いいの? 中野ブロードウェイ行ってもいい?」 「いいよ」  目を輝かせて、スマホで交通手段を調べる。多分、またオタクの趣味のものを買おうとしているのだろう。  表参道の街を歩き出す丸い背中を追い掛けながら、スマホに映る愛しい人の名前を見て温かい涙が目尻に滲んだ。
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