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「好き過ぎて何もできなくて、むしろ嫌われるようなことばかりして……でもいつか南さんに好きになってもらえるように、僕、会う度に好きだって言い続けます! この気持ちに嘘は無いんだから!」
勇気を振り絞って南さんの眼を真っ直ぐに見詰める。
「好きです!」
面食らったように眼を丸くした後、笑って僕の頭を掻き回し始めた。こっちは真剣なのにはぐらかされたようで、少しむっとする。
「あのっ、僕本気で――」
南さんの手を躱し顔を上げた次の瞬間、顎に手を当て上向かされ、唇に柔らかな感触を感じていた。
至近距離に彼の顔がある。何が何だか分からないが、心臓は痛いほど早鐘を打っていた。
「……あー、何となくそういう雰囲気だと思ったけど、違ったか?」
僕の顔を見てばつが悪そうに後ろ頭を掻く。
「みっ、南さんがしたいなら、全然、僕はっ……いつだって……!」
声を上げて笑い出す南さんを見て、混乱したまま変なことを口走ったと気付き、顔が沸騰するほど熱くなった。
「そんな軽々しくするかよ」
じゃあ、どうして今、キスしたんだろう。笑いながら駅の方に歩き出す南さんの後ろを追い掛ける。
「好きでもない相手とキスするのは軽々しいですよ……!」
「ははっ、俺もよく分かんねえし」
生きている年数は変わらないはずなのに、南さんには大人の余裕がある。好きになった方は常に劣勢を強いられるのだ。
駅に着き。改札を通り抜ける。南さんとは反対の方角だから、ここから別々だ。
「なあ、颯人」
呼び掛けられて振り向くと、南さんが目を細めて微笑んでいて、その表情に魅入られる。
「これが恋なのかどうか、教えてくれよ」
そう優しい声音で囁く彼の新しい一面に、僕はまた、恋をする。
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