運命

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しかし、浅黒い肌をした王は冷静に首を左右に振る。 「お前の所属を国連軍から剥奪する。」 先程までシイカの目つきに怯えていた男は消えて、今は王として力強く言った 「シイカ妃として生きろ、皇后を目指せとは言わない……あちらの軍に関わる事をハルトゥ王国とイウリオス帝国の公約としてお前に関わるな、と命じる。」 「そう、ですか……。 謹んでお受け致します父上」 シイカの半生を物語るには軍人としてのキャリアが大半であり、そして今、父によって居場所が失われた。 ※※※ シイカ王女の誕生は軍事国家であるハルトゥ王国にとって非運でしかなかった。 「誕生されたのは王女様でございます」 「……まさか、そんな」 冷たい石造りの廊下で助産師(じょさんし)から告げられた言葉に王は(うたが)いと希望を捨てきれず静止をふりきって飛び込み、呼吸も整わないほどの産後間もない妻に駆け寄った 「王妃(おうひ)よ、答えておくれ。 その子は、男児か?」 疲れきった王妃は弱々しく赤子(あかご)を大切に抱え直すとゆっくりと首を左右に降る 「陛下(あなたさま)が指差す御子(おこ)は女でございますよ、誕生したばかりなのに貴方様が来てくれてこんなに嬉しそうにしていますよ。」 赤子の顔は柔らかい表情をしており、王は王妃の言葉と我が子へ失望した様子を隠すことなく部屋から立ち去った。 先代王もその先代も永年(えいねん)とも言えるほどハルトゥ王室の第一子は男児とされてきた歴史があり、子どもの誕生に落胆する王もその一人、王位継承順位第1位として即位した正統な王。 国民には鐘の音が鳴る回数で性別は伝わっており、もちろん城に仕える者達にも王女(・・)の誕生が知らされていく。 「プラウスス王とアミナ王妃の御子は王女ですって。 将来、軍を率いる王子が不在なんて軍事国家として終わりなのかしら」 「しっー。 プラウスス陛下は隣の部屋にいらっしゃるわ」 女官の声が響くほど、祝福されるはずの日に城内は静けさが目立っていた。 父として娘を愛でる気持ちよりも国の安泰を望む王として我が子を避けるようになり、やがて王妃は城の別邸を王女専用の住居として数人の侍女をつけて育てた。 それから5年後、シイカと名付けられた王女は王命(おうめい)により急遽、王立士官学校(おうりつしかんがっこう)に帝王学専門の教師と共に入学させられる事になった。 王家が長年、第一子の性別が男児だった為に王への批判は集まったがこれまでの慣例に従って将来、軍事国家を率いる者として王女のシイカを士官学校に入れたのは結果的には軍事国家の血を引く者として才能が開花したのだから皆が驚いた。 1番驚いていたのは父王のプラウススである。 女だからと見放していたシイカは分析力に長けていた、何よりも将来の女王として教育された為に過去の戦争の知識が豊富であった 「入学して二年で歴史上最短で筆記と作戦の成績を評価されましたシイカ王女殿下へ中尉(ちゅうい)の位が授けられました。」 「……皇帝陛下主催であります国連軍と国連警察隊の交流会ですが、この成績であればシイカ王女殿下の出席は不可欠かと思います。」 帝国議会からの伝令でイウリオス帝国の皇子が王立士官学校に短期留学をする事が決定しており、こちらの王女が成績優秀となれば未来の皇帝となる彼と会わせるのは外交的に重要となった。 「シイカが下手な事をしでかさぬよう教育を怠るなと王妃に伝えろ。」 ここでも王であり父であるプラウススは厳しい態度を見せていたがシイカは幼いながらも自らの使命を受け入れて慎ましくも驚異的な能力を示していた。
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