運命

5/8
前へ
/106ページ
次へ
 交流会当日、シイカ王女は士官学校中尉生として交流会の準備や管理している隊に指揮伝達を行うなど忙しく振る舞うが彼女は未だ7歳であり、周りの歳離れた青年達は女児の的確な指示に素早く対応している 「シイカ王女とはあなたの事か?」  とても(せわ)しない場に空気を読まない間延びした声に振り向いて、視線を下げると(しわ)一つないシャツに青いリボンを着けた同い年くらいの男児がこの国の王族である女児に指を向けていた。 「こらっ、シイカ様は王女殿下であられるぞっ!」  すぐにその様子を見ていた青年がシイカに向けられた子供の指を制止しようと駆けつけたところ、いつの間にか国連軍とは別の黒い隊服に身を包んだ男が(あいだ)に入って青年を捕らえてしまった。  とても異様な動きをする男とあっけなく捕らえられた部下にシイカは驚いたが一瞬で奇襲(きしゅう)と判断して脈打つ鼓動を抑えて全身の未熟な筋肉に力を込める。  そして唯一、所持を認められていた警棒を取り出したが、それも男が奪おうと腕を伸ばしてきた。  しかし小柄で小回りの効くシイカが一枚上手(うわて)。軽く腕を払い()けて男の首元を狙い警棒を刺そうと一歩前に出る。  その時、幼い声が鋭く響いた。 「ヤドレブ、やめろ」 「え?」  シイカは幼い声だけで男の動きを止めさせ、部下を解放させた男児をやっとのこと思い出した。 黒一色の男は先程までの殺気を消し去り大人しく男児の隣で地面に片膝をつけて礼をする 「失礼をお詫びしますシイカ王女殿下。 この方はイウリオス帝国第一孫皇子、ヴェルデ皇太孫殿下でございます。」  男の説明に警棒を仕舞いながら、男児に顔を向けないようそっと礼を返してシイカは青年を下がらせた。 「こちらこそ失礼をしてしまい……非礼をお詫びいたします皇太孫殿下。」  シイカは汚れた軍服姿で任務中に現れたプライベートと繋がる相手には不慣れな少しぎこちない笑みを浮かべることしかできない。  幼いヴェルデは気にする素振りもなく男に言われるがまま主催席の方に戻って行った。  これがシイカとイウリオス帝国次期皇帝ヴェルデの初顔合わせであり、この後はヴェルデ皇太孫娘の側近であるヤドレブの証言によりシイカと部下の不敬は取消しになる事で騒動もすぐに忘れ去られた。  シイカの皇太孫付きの側近に警棒を突き付けた行為は実力と咄嗟(とっさ)の判断力の高さを皇帝陛下から称賛までされた事でプラウススの怒りはシイカへの再吟味(さいぎんみ)に繋がり、少しずつではあるが王として、父として、後継者である娘を認めざるおえなくなってゆく。 そこから順調に、というよりは異様(いよう)に受け継がれた軍人としての能力を開花させていくシイカ。 最年少で昇格した(のち)、ある出来事がきっかけで必然的に王よりも権限を持つ元帥(げんすい)の位に異例の最年少16歳で着任。 それからはイウリオス帝国に属さない他国からの襲撃を返り討ちにする手腕を見せた。 (しん)の軍人として名高い名誉を民衆からいただいたシイカは26歳にして任を解かれ、婚期も過ぎ去った王女殿下になってしまった。 そんな彼女の親友として対象的な柔らかい陽の光を(まと)った姫巫女殿下も隣国のイウリオス帝国へ輿入れする事が決まっている。
/106ページ

最初のコメントを投稿しよう!

100人が本棚に入れています
本棚に追加