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グアルディア神国の第二巫女姫として誕生したのは滅私奉公の精神を掲げている皇室に相応しいほどの優しい女の子であった。
ジリッツァ姫は通常は儀式後に与えられるはずのご加護をこの世に生まれた瞬間から陽の光の加護を受けており、占いの能力も姉を上回るほど。
国連警察を育てる国としては少しばかり優しすぎる事もあり過去には囚人に対して、家族が幼いという理由で監視付きの仮釈放という慈悲を与えてしまい、幼い頃から姉のように慕ってきたシイカにも呆れられて国中が呆れているが心優しく神と民に愛されている姫巫女である。
そんな彼女は17歳という婚期の真っ只中であり、帝国からの勅令に対して母である女王が悩む間もなく許可する他の選択肢がないくらいシイカの名を聴くや否や鼻を鳴らす勢いで飛び上がった
「シイカ姉様が嫁ぐのでしたら私がご一緒しますわ!」
本人は行く気満々という様子で国民達も皇帝陛下に嫁ぐというより、隣国の男など負けない手腕の持ち主シイカ王女に嫁ぐ認識でいるほど、ぼんやりした穏やかな国である。
こんなぼんやりな国民が多いが王室は代々、神の声を人間に告げる巫の女王が治める国であり、遥か昔に遡ればハルトゥ国と同等の軍事力を誇っていた国でもある。
今は国連警察隊を育成する国として権威ある優しい国として最も安全な国である。
そんな国から大国に嫁ぐともなれば女王はジリッツァの能天気さを他所に、入念に1番、神に愛される姫を安全に帝国で暮らせるよう帝国議会に駆け寄わねばならない。
瞬く間にその文書は帝国議会に勤める外務大臣プエンテに届けられた。
「グアルディア神国からの進言ですが今回、他国から嫁ぐ妃とイウリオス帝国貴族から嫁ぐ妃とで住まいを別々にせよとの事でございます。」
「それは既存事項であるが他には何かあるか?」
プエンテは外交官の抱える文書を横目に熱いお茶を余裕ある態度で啜る。
「後宮はグアルディア神国から選出した警備隊を配置させ、帝国人と他国妃の対立懸念の材料を防ぐ事を望む。」
「それは……防衛大臣と話さなければならぬから保留だな。
うむ、もっと具体的で直接的な物はないのか?」
熱かったのだろう、片目を瞑り眉間に皺を寄せるプエンテに外務大臣が俊敏な反応で望まれる文書を掲げる
「プエンテ様、これが1番の本題かと思われます。」
差し出された文書は1枚だけ紙質が文書には向かない高級品であり、ご丁寧に香まで薫ってくる
「なるほど、他国妃には一人一邸か……ん?」
プエンテの落とした視線の先には金のインクで
〝経費は結納金で賄えよ〟と綴られており、グアルディア神国の印がその上に押されていた
「やはり神国の女王は隠し持っていたか。」
穏やかな国柄であり長年、良い関係だった国であるだけにプエンテはこれを承諾しない訳にはいかない。
余った資金は他に回せばよい。 そう思いながら帝国議会の後宮建設費を上回る結納金に自然と笑みが溢れた
「帝国議会を今すぐ収集せよ。」
プエンテの要望で集まった5名の大臣達は少なからずも表情に出すまでとはいかずとも、臨時収入ともいえるグアルディア神国からの結納金に目配せをする中、一人だけ堂々たる態度で眼鏡を光らせながら立ち上がる青年がいた
「これはグアルディア神国の女王陛下が後宮建築にと提示した費用であり、余ったとしても我々で処理はしないべきです。」
根っからの真面目を評価されて出世してきたこの中で1番若いポルトフォリ財務大臣。
彼の発言に肩をすくめて頷いたり、明らかな嫌悪感を表す者もいるがプエンテは後者である。
まず「当然でしょう。」 と前置きした上で改めてポルトフォル始め、皆の真っ直ぐな視線を部下に持参させた資料に落とさせた
「これは私でザックリと計算してみた後宮建築にかかる費用ではあるが、明らかに不足しているな」
「そ、それは我が財務省で――」
ポルトフォルも負けじと口を挟むがプエンテは止まらない。
「財務省からの経費では後宮はひとつの屋敷のみとなり、お妃様方は顔を合わせて生活しなければなりませんが……」
再び、二人の視線がぶつかり合うが眼鏡の奥は先程までの堂々たる態度のかけらもない
「今回の費用があれば女王陛下の申し出通りに建築したとして、大幅に余るのが分かった上で我々で余った費用はどこに使うのが正しいのかを話し合うためにこの場を開いたのだよ、ポルトフォリ君。」
プエンテの発言は真面目一貫の男には効果的面であり国家予算が何重と繰り返さねばならない婚礼の費用により削減され、今年は出費が多いからと歴代の後宮建築費用と見比べて適当に建築費としては当たり障りないとした上で少なすぎる額を提示していた。
「なるほど、これはプエンテ様の言う通りですな。 財務大臣は何かお疲れのようですし余ったら余ったで議会を開けば良い……今日はこの辺でよろしいかな?娘と久々の再会をするのでね、ではご機嫌よう。」
この場にいたジアンは珍しく話の間に割って入り、いつもは長々と人を罵るのが恒例であるはずが今回はあっさりと終わせた。
プエンテをはじめ皆が扉から出て行く姿を見送る
「……よほど妃に上がった娘が可愛いのだろうな、我々も仕事が残っているゆえ、失礼する。」
西南院の普段は大人しい農林水産省の大臣までもがポツリ呟いてその後を続くように皆がいなくなった。
プエンテは一人残り、結論をまとめて文書に書き下ろす。
最終判断はヴェルデになる為、極力手間のないあっさりとした報告書である
──グアルディア神国第二巫女姫ジリッツァ姫殿下の結納金をグアルディア女王陛下からの申し出により後宮費用として利用致します──
壁に飾られた肖像画のヴェルデは婚礼に未だに興味を持っておらず、民の要望に目を通して小さな命令を下すだけの仕事人間でありプエンテは報告書で婚礼相手に少しでも興味が湧いてくれるかと期待を持った。
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