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漁港に監督の声が響くと、俺は男に駆け寄った。男は「ちょっと当たったよね」と笑うと、俺の差し出した手を握り立ち上がった。
監督と一緒にモニターを見ると、どう考えてもクサ過ぎる台詞に、不自然なほど吹っ飛んだ男。何だこれは……。思わず首を捻った。
「なぁ、間に女なんて入れてみたらどうだ?」
俺は監督の加藤に提案してみた。加藤は「例えば?」と言って俺を見る。
「もうやめて! 何でこんなことするの? みたいな」
俺は内股で女っぽく叫んでみたが、加藤の「うーん、却下!」という言葉が虚しくそれを切り裂いた。
俺達は、とある映像会社のコンテストに応募する作品を作っている。それは15分間のショートムービー。
募集テーマは『落としもの』だ。
いくらでもストーリーが思い付きそうなこのタイトル。しかし、これが難航した。メンバーは俺と監督の加藤、それから先ほど吹っ飛んだ中川の三人だけだ。
台本も三人で考えた。まずはこの『落としもの』について各々のストーリーを持ち寄ったが、面白いことに全員が偶然何かを拾って、その持ち主と出会い、ハッピーエンドになるという内容だった。
俺はネックレス、中川は財布、加藤は女性の下着。それぞれにヒロインを思い浮かべて運命的な出会いを果たすストーリーは、男子の憧れなのかもしれない。
俺達は優しく気遣いができる人間だ。誰もそれぞれの台本にケチは付けない。口を揃えて「悪くないね」と評価しあった。
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