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心の落としもの。それは人の目には見えない。それを見つけるのは困難なことだ。
通りを歩く人を見る。誰もが一つは持っているのだろうか。知らない内に失くした何かは、気付かれないまま、どこかで寂しく転がっているのだろうか。
行き交う人々は、そんなことは微塵も感じさせない表情でどこかへ向かって歩いて行く。
ふと思う。俺にもあるのだろうか。心の落としもの──。
そう言えば、こんな風にコイツらと歩くのはいつ振りだろう。ただ集まって、何か楽しそうなことを探す。くだらないことにあれこれ触れて、冗談を言い合って。
──何か、大事なことを置き忘れてないか?
大人になると、何をするにも目的が必要になる。それは時間に限りがあることを、身を持って知るからだ。時間を無駄にできないという気持ちは、知らない内に俺達の心の距離を遠ざけていく。
──知らない内に、少しずつ失くしていったのか?
何もない時に限って、そこにはコイツらが居た。一緒にいるから、何かが起こる。今の俺は、何かがないと、どこへも行けなくなった。加藤から誘いを受けた時、俺は目的があったから来たんだ。
落としものはどこだ。俺の落としものは、一体何だ?
考え事をしていると、俺だけが少し遅れてしまった。二人が振り返り、「おい、何やってんだ、先行くぞ!」と叫ぶ。
何言ってんだ。行き先なんて、無いだろ?
俺は二人の元へ駆け寄ると、「何かあったか?」と聞いてみる。首を振る二人を見て「ダメだな、こりゃ」と笑い合う。
そこに何か見つけたような気がして、俺は口を開いた。
「どうせなら、俺達らしいものがいいよな」
その時、向かいから高校生が歩いて来た。偶然にも俺達のように三人組。不思議とそれは、キラキラと輝いて見える。ふざけ合いながら、希望に満ちた目で歩いて来る。俺はそれを見て、思ったことをそのまま口にしていた。
「青春かぁ。いいよな。あんな時期、俺達にもあったよな」
その声に、加藤と中川はピタっと止まり、二人揃って上目遣いで俺を見た──。
それが先月のこと。そして俺が中川を殴り飛ばしたシーンを撮り終えて、撮影はとりあえず終了した。
撮影期間一ヶ月。「編集は任せろ」と言う加藤は、何か企んでいるような目をしていた。
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