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一週間後、加藤から電話が掛かってきた。「とりあえず見てくれ」とのこと。俺が加藤の家に着くと、中川も程なくして到着し、モニターの前に腰掛けた。
この映画のストーリーは、中川と俺が主人公だ。昔は優しかった中川が、家庭環境の悪化により、徐々に暴力に目覚めていく。やがてそれは、幼馴染みの俺にまで及ぶようになる。
しかし俺は殴られても、中川を信じている。本当は優しい中川に、どこかで忘れた『人の痛み』という、目に見えない落としものを届けるという設定だ。
加藤はそれを、『胸が熱々の青春』と言っていた。
『おい、やめろ! やめてくれ!』
冒頭は、俺が中川に暴力を振るわれるシーンから始まった。俺は涙目で中川に財布を渡すと、中川は中身を抜いて俺の頭に叩き付けた。
迫真の演技というのには程遠い。見たらわかる。俺も中川も、恥ずかしさを堪え切れていない。そのためか、目が泳いだり台詞を詰まらせたり。
すると、突然画面が黒くなって白抜きの文字が次々と打ち込まれていく。そして、それを聞き覚えのある声が読み上げていく。
『僕達は、無邪気さを置き忘れ、羞恥心を手に入れました』
加藤は上目遣いで俺と中川を見た。
『この物語こそ、僕らの落としもの──』
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